第11話

 一年は一階、二年が二階、三年は三階、四階は特別教室。基本的に他学年は他学年のフロアに行くことは校則で禁じられている。訳の分からないルールだ。が、今回はそんなことは言ってられない。校則より優先される事項がある。


「お邪魔します」


 三階、上がってきた階段から最も遠い場所にある教室。緊張したままドアを開けると、教室の中央に女性二人がいた。二人とも俺たちに気づくと顔を上げる。


「おっ! おー、君が冬夏 秋人くんかぁ」

「お噂はかねがね」


 なんとなく値踏みするような視線を向けてくる二人に、俺は顔が引きつりかけた。一体全体、何の噂だ。


「美形の一年がいるって聞いたけど、なるほどなるほど」

「モデルとかやってないの?」

「やってません」

「もったいな!」


 二人の声が綺麗に重なる。「事務所紹介するよ?」と本気の声色で迫られ、今度こそ顔が引きつった。

 二重先輩の性格とは違うタイプの近づき方に俺は戸惑っていた。二重先輩はちゃんと相手のことを見て、踏み込むところを踏み込んでくれる印象がある。けど、この二人はそうじゃない。近づき方にゴシップ的な下世話さを感じる。

 こほん、とわざとらしい咳払い。日鞠さんだった。


「時間も惜しいので本題に入ってよろしいでしょうか」


 二人とも渋々といった様子で、頷いてくれた。


「どちらが双海さんで、二木さんでしょうか」

「あーしが双海」


 黒髪をおさげにしているのが双海先輩。


「あたしが二木」


 暗い茶髪のストレートヘアが二木先輩。

 俺は見た目で区別がつくからいい。だけど、声色が似ている二人を日鞠さんは聞き分けがつくだろうか。


「二重先輩から、お話は聞いていますか?」

「ん。ドッペルゲンガー? だっけ」


 紙パックにストローをさしながら、双海先輩は言う。


「あれさぁ、あーしが元凶かもしんないんだよねー」

「えっ?」


 思わぬ答えに、今度は俺と日鞠さんの声が重なる。


「どういうことですか?」

「実はさぁ」


 俺の問いかけに、双海先輩は次のことを話し始めた。

 四月に入って第二週目の水曜日の夜。通り魔事件のこともあり、双海先輩は繁華街の明るい道を歩いていたという。そのとき十数メートル先、ホテル街の入口で男と並ぶ見知った姿を見た。制服姿の二重先輩だ。声をかけようと足を速めて、はたと気づく。

 ――この時間、彼女はアルバイト中でいるはずがない、と。

 ここまで話し終えると、双海先輩はこめかみのあたりを叩いた。


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