第10話
「そもそもドッペルゲンガーが目撃されているのって、いつなんですか?」
「基本的には」
生徒会長がその辺にあった裏紙とペンを持ってくる。
「繁華街で水曜日から金曜日、二十時から二十三時のどこかだな」
「詳しいですね」
日鞠さんが感心したように続けた。
「ご自身でお調べに?」
「ああ。演劇部の脚本担当的にも、個人的にも気になるからな」
俺はちらりと二重先輩を見た。自身の不幸が娯楽として消費される。俺だったら物の一つや二つ、いや三つぐらいは生徒会長に投げつけそうになるが。が、先輩は「そうなんだー」と真剣な顔で見つめている。
「じゃ、まずオカルト的な分野だな」
「そうですね」
「そもそも、ドッペルゲンガーを消す方法ってあるんですか?」
俺は言いながら検索してみる。
「うーん。……スピリチュアル的な話が多いですね」
「それはそうだろう。悪い夢だと思ってゆっくり普段通りに過ごすのが一番だ。二重、ここ最近忙しすぎだろ。疲れてるってこと」
「そう……なのかな?」
二重先輩は首をかしげている。当事者的には納得のいかない理由だろう。日鞠さんが「では」と主導権を握った。
「次は人ですね。二重先輩、いくつか質問をしますけど、大丈夫ですか」
「もちろん! 正直に答えるよ」
「では。単刀直入に」
質問をする彼女の表情は変わらない。呼吸をするように、ためらいなく問いかけた。
「こんなことをする人間に心当たりは?」
沈黙。
二重先輩は視線をさまよわせた後、唇を真一文字に結ぶ。
「いる、ということでよろしいですね」
日鞠さんには先輩の葛藤は見えない。先輩は迷って、それでも口を開いた。
「妹なんだけど、よく私の真似をするの、最近。お気に入りのブランドがあるんだけど、同じ系統の服を借りてったり化粧の仕方も真似されたりとか」
「憧れも度が過ぎると大変ですね」
「そうなんだよねぇ」
日鞠さんの相槌、二重先輩は頷く。
「うっとうしくなってくる。私のバイト中に制服着てるとか十分あり得る」
「アルバイトは何を?」
「居酒屋のホール。だから、十七時から二十二時ぐらい。月水、時々土曜」
「なるほど。アルバイトのことはだいたい皆さんご存じのことですか」
「知り合いや家族はみんなそうかな」
「分かりました。次に先輩がご存じの範囲で容姿が似ている人はいらっしゃいますか?」
「同学年だったら、
「それであれば見間違いもあり得ますね。お二人にも話を聞く必要がありそうです」
「実際、見間違えられたこともあるんですか?」
俺の質問に、二重先輩は頷く。
「そうだねー、三人とも三人に間違われたり。例えば、私が双海ちゃん、二木ちゃんが双海ちゃん、って感じ。伝わる?」
「なんとなく」
そんなに似ているのかと興味が沸いた。
「もし先輩さえ差し支え無ければ、写真見たいんですけど、あります?」
「あるある!」
ちょっと待ってねー、と端末を操作している横で生徒会長が口を開く。
「ドッペルゲンガーは喋らないんだ」
「喋らない?」
「話しかけられても喋らない。逃げていくのは通りじゃないか?」
「あったあった! これ」
と袖を引っ張って俺に見せてくれる。端末を受け取り、俺は写真をまじまじと見た。
髪の色のトーンぐらいしか差異がない。写真から読み取れる雰囲気も、何もかもがよく似ている。
それぞれラメラメしたペンで名前が書いてあるから二重先輩がどこにいるか分かるが、ヒントがなければ一瞬考えこむだろう。夜の街中という状況下で会ったら見間違えるかもしれない。
「似てますね」
「でしょ」
何故か先輩は自慢げだ。
「それよく言われるんだよね」
「二重先輩」
おずおずと日鞠さんが切り出す。
「先輩のご友人のお二方にお話を伺いたいんですが」
「いいよいいよ、たぶん二人とも今日は暇だし」
再び液晶に目を向ける先輩。沈黙が舞い降りる。運動部がグラウンドで青春を謳歌している。か、どうかは分からないが、野球部がゴロの練習をしていたり、奥ではテニス部がテンポ良くラリーをしていたりする。
「OKだって」
「返信、早いですね」
「うん。私も同行しようかって聞いたけど、いいって」
俺と日鞠さんからしてみると、知り合いの二重先輩がいてくれたほうがありがたいのだが。
「何時ぐらいですか?」
「今から」
「え」
生徒会長の口から空気が漏れ出た。そのセリフを言いたいのは俺だ。
「大丈夫なんですか?」
俺のその問いかけに「大丈夫、悪いことはされないと思うよ」と二重先輩はいたずらっ子っぽく笑った。
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