第8話

 くだらないことを話して、馬鹿騒ぎをしながら教室に戻る。教室は数人の生徒がまだ食事を楽しんでいた。トイレだなんだで各々が散っていく。

 日鞠さんに話しかけようと彼女の席に寄った時、藤野ふじのさんに話しかけられた。


「ねー、秋人くん。放課後ヒマ?」


 派手でというわけではないが、目を引く見た目をしている。中学部時代からそこは変わらない。『今時 ギャル』で検索すれば出てきそうなぐらい、典型的な今時のギャルだ。それでもって社交的で、クラスの中心的人物だ。俺や日鞠さんが先生から選ばれてなければ、学級委員は藤野さんになっていただろう。


「あー」


 俺は日鞠さんを見た。我関せずでサンドイッチを食べている。


「予定、あるんだ」


 その答えにあからさまにムッとした顔をされた。


「そうなんだ。……日鞠さんと?」

「と、二重先輩」

「じゃあ学級委員の仕事?」

「うん」


 その返事に藤野さんは機嫌を直したらしかった。


「じゃあ仕方ないね」

「なんか用だった?」

「他のクラスとカラオケ」

「そうなんだ。行けたら行くよ」

「助かる、秋人くんがいるとみんな盛り上がるから」


 返事はせず曖昧な笑みを浮かべるに留めた。今回のようなことは初めてではない。彼女からカラオケやゲーセンなど、ちょこちょこと誘われていた。

 ――あわよくばお近付きになれないか。そして付き合えないか。

 そんな彼女の思惑が俺に向けられる言動全てに見え透いている。なんとなく、その魂胆に気持ちの悪さを感じていた。もちろん自意識過剰と指摘されればそれまでだが。ハブられない程度に行ったり行かなかったり、ほどよい距離感を保ってきた。

 ふと藤野さんが思い出したかのように顔を上げた。


「そういえばさ」

「ん、どうかした?」

「昨日の夜、繁華街いた?」

「いや? そんな記憶はないけどな」

「人違いかな。よかった、声かけなくて」

「俺のドッペルゲンガーかもね」

「あはは、やだー!」


 けらけらと藤野さんが笑う。本当に機嫌は直ったらしい。そのまま、適当に会話を交わして別れた。一息ついて、今度こそ日鞠さんに話しかけた。


「そういえば、手、平気?」

「はい。お騒がせしました」


 四限の調理実習で怪我をした彼女の手には、包帯がまかれている。


「話は何となくわかりました。昨日の件ですよね、どこでやるんです?」

「生徒会室。一緒に行こう」


 お願いします、と日鞠さんは頷いた。

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