第30話 喫茶店

 すぐ、代表に報告した。

「代表、代理出産と精子確保の依頼ですが、最高で一千万円近くになるディールです。受精卵がなければ、どうにもならないので、精子の確保から進めることとします」

「慎重にやってくれ。これすじが、こういう取引に進出しているという噂もある。何か、あったら言ってくれ」

 代表は、これすじと言うとき、親指で頬をこすった。


「しかし、精子提供サイトは面白いというのか、ふざけているのか、あるいは。女を馬鹿にしているのかと思うほどだ。とりあえず、三つのサイトを選びメールを送り信頼できそうな提供者と会うこととした」

 私は、精子の提供者の身元確認のため、代理で喫茶店に行った。

BGMが流れている。

「始めまして」

 提供者は、案外イケメンだし、いい感じだなと思った。

「おやっ、あなたがレシピエントですか」

「いいえ、私は代理の者です」

「代理、珍しいですね。誰かから依頼を受けたのですね。それとも信頼できるかどうかの見極めかな」


花子「ビジネスに移りますが、有名大学の卒業だとサイトに記載していますね。その証拠書類を見せてください]

提供者「これは、東京大学の卒業証書の写しです。それに、免許証です」

花子「生年月日と氏名を確認しました。気を悪くしたらごめんなさい。これは、写しですよね。今は、卒業証書などは、簡単に画像加工できるので、証拠書類にはならないんですが」

提供者「そう、言われます。しかし、わざわざ、卒業証書の原本を持ち歩く人っているんですかね」

花子「勤務先を証明する書類を見せてください」


花子MO「男は、健康保険証や身分証明書を出した。しかし、名刺などは、自宅で作成できるし、健康保険証には、普通は、勤務先の名称は記載されていないので、確認のしようがない。結局、確認できたのは、本人の容姿と身長だけだった」


花子「あなたがサイトに記載したような高スペックの精子の提供者だと、どのようにして証明できますか」

提供者「いつも尋ねられるのは、そこなんです。証明のしようがないんです。私の名刺を渡して、その場で名刺に記載されている電話番号にかけるのが、勤務先を確認する一番簡単な方法なんですけど、普通、代表電話しか書いてない場合も多いですよね。それに電話すると、受付が出て、呼び出して欲しい人の名前を告げると、やや、時間をおいて『只今、外出しております』と言われると思います。これも、アリバイ代行会社を利用すれば、簡単なことです。ですから疑えば、キリが無いんです。ところでどうしますか?」


花子MO「これは、盲点を突かれた感じだった。人間のスペックを表示しているものが確認できないということには、思いもよらなかった。探偵会社にでも頼めば確認はできるだろうが、果たしてそこまでやるほどのことだろうか。なるほど、これで、あの精子提供サイトの表示の意味が分かった。確認できないことは、何を言っても嘘にはならないのだから。実際に面会して、概ね信頼できると思われる人物がいたとして、そんな程度でいいのか。面会した人間とは、別の人からの精子ということもありえる。ビジネスである以上は、何らかの確証があって、始めてビジネスになるはずなのに。それとも本物の東大生に頼んで提供してもらう。そんなことが出来る訳がない。精子の購入には、責任が持てない。万が一、購入して、おかしなことになれば面倒なことになる」

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