第16話 Kから赤ん坊希望
しばらくして、K夫婦から、赤ん坊を世話して欲しいとの依頼があった。金は取るぞと言うと金はあると言われてしまった。
特別サービスとして、希望を聞いた。
「夫の血をつなげたいという希望があれば、代理母に出産してもらうことが出来る。希望しないなら、普通の養子縁組となるが、どちらがいいかな」
「お前は、どちらがいいと思う」
「これは、夫婦の間の問題だ。他人が口を挟むことじゃない」
「参考までに、聞いているんだ」
「参考までなら、折角お前という人間がいるんだ。お前の血を継がせたいな」
「ありがとう。でも、代理母まで使って、自分の子どもは欲しくない。女房も同じ意見だ」
「わかった。さすが、俺の友人だけのことはある」
そう言ってから、私は、赤ん坊を物色し始めたが、考えると難しい。頭の良い子や美人の子などを選べるわけもない。迷ったあげく、次に電話で子どもを預けたいというケースにしようと思った。
Jも私も、互いに好きになって、私は、Jと一緒に暮らしてもいいかなという気持ちになっていた。しばらく暮らして、これは無理だと思ったら後腐れ無く別れる。これが、今流だ。
Jとミュージカルを見てから、高級レストランのディナーに行くことにした。その名を言うと、
「え、あそこ。すごい、一度行ってみたいと思っていたの」
と言った。
ディナーは、二人で一〇万円。ワインが、一本三万円と良い値段だ。
私は、最初から切り出した。
「一緒に暮らしてみないか」
「ちょっと、もう少し、ロマンチックにいかない」
「どうするの」
「ディナーが終わったら、お酒を飲んで、それからホテルに行って……」
「そうきたか、でも、もう一度聞くよ、一緒に暮らしてみない」
「それって結婚前提ですか」
「うーん、それもあるけど」
「何ですか」
「自分の中に、怪物がいるとは前に話したと思うが、その怪物は、私が幸せになるのが一番嫌いで、必ずぶち壊しにかかるんだ。だから、それが、動き出すかどうかを知りたいんだ」
「また、怪物がいるなんて」
「怪物というのは、例えで、一種のアダルトチルドレンと言っても良いんだが」
「ああ、アダルトチルドレンなら分かります。私には、いませんね。大きくなるまで、愛情たっぷりに育てられたから」
その言葉を聞いたとき、私の怪物が目を覚ましたような気がした。
「愛情たっぷりか、それは良かった」
「どうかしました」
「私の怪物は、愛情たっぷりな人じゃないと太刀打ちできないくらい、強いんだ」
「ちょっと、怖いなー。Sさんて、怖いところがあるのよ」
レストランから、超高層ビルの展望台で珈琲を飲んで、ホテルに行った。なるほど、Kが言ったとおりだった。あそこが、他の女と違っているということはない。夜は、こうして更けていった。
私と彼女は、同棲を始めた。一軒の家と言っても、マンションだが、その中に自分とは別な人格がいて、その家を仕切るということになかなか慣れなかった。単身生活が長すぎたせいもあるだろう。ただ、家の中は、きれいになり、整理されていった。
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