第9話 Kの妻
少し熱っぽさを感じながら会社に着いた。改めて、今日のスケジュールを確認した。特に面会の予定はなかったので、書類作成に専念することにした。面会は、後になってもめ事を防ぐため原則として録音しているが、肝腎なところは文字にしておく必要がある。これは、社員であれば、だれでも閲覧できる。代表がIT化を進めるのは、こういう理由があるからなのだろう。
昨日のKの相談を考え始めた。これほどの裏切りはないだろう、それは確かだ。離婚、いや待てよ。それでは、八年間の夫婦としての生活には、意味がなかったのか。自分が結婚していないから、大きな顔はできないが、夫婦というものは、そんなものなのか。夫婦って何で成り立っているんだ?。
Kの奥さん、と言っていいんだよなと改めて思った。法的に女性だから奥さんで良いんだ。奥さんが好きなのか、嫌いなのか、これで子どもでもいれば、いや子どもが出来るわけがないんだな。 Kは昨日、好きだが、生理的に嫌いになったと言っていたな。生理的にとは、具体的にどういうことだと聞くと、彼女を抱く気になれない。彼女の裸を見ても勃起しないと言っていた。これは、駄目だなと思った。
しかし、奥さんの気持ちはどうなんだ。なぜ、黙っていたんだろう。と考えている内に、奥さんの気持ちが分かるような気がしてきた。
つまり、奥さんは、性転換してから、最初の内は、Kと知りあって、少し好意をいだいたが、その恋がこわれないようにと、何も言えなかった。そして、深く知りあってからは、絶対に別れたくないから、言い出せなかったということでは、なかったのではないか。
そうだとすると、奥さんの女心が哀れだった。奥さんが、子宮がないとKに告げたということは、その意味を分かって欲しいとの謎かけだったのではないか。
プロポーズされて……奥さんも相当悩んだだろう。本当の事を言ったら嫌われるかも知れない……本当の事を言えば捨てられるかも知れない……そんな『元男性』に厳しい世の中だから、奥さんは言えなかったんじゃないのか? Kを本当に好きで、失くしたくないから。
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