第6話 昼休み K夫妻
昼休み、外の空気を吸いたくなって、久しぶりに会社近くの公園をぶらついた。大都会で暮らしていると季節感が失われるというが、そんなことはない。空気が澄んで遠くの山がよく見える。枯葉を踏む音に秋も深まってきたのを感じる。この季節になると、昔は、冬山登山を意識して、身が引き締まったものだ。
スマホを見るとメールが来ていた。大学時代の同級生のKからだった。久しぶりに会いたいという。いつもの居酒屋を指定していた。了解の返事を出す。しかし、今頃、何の用だ。あいつは、結婚して八年、子どもこそいないが、何も心配なことはないはずだ。
八年前、Kの結婚式に招待され、新郎友人代表としてスピーチを頼まれた。最近は、昔のように大がかりな結婚式をしなくなっていたが、これは、Kの両親の希望なんだろうなと思った。新婦は、知らない仲ではなかったが、ウエディングドレスの新婦を改めて見ると、やはり美人だと改めて思い知らされた。釣り落とした魚は大きかった。
新郎も新婦も背が高く、これでは、二人に間にできる子どもは、天井に頭がつかえるのではとスピーチで話して、結構笑いをとったが、新婦は恐縮していた。
普通、新婦の招待客は少ない場合が多いと思っていたが、新郎よりも多いのではと思うほど、新婦の人づきあいの広さに驚かされた。披露宴は、新郎新婦の友人主導で進められたが、新婦の友人に芸達者な女性が多かった。その中には、私の好みのタイプもいた。だが、誘ってもその後の付き合いまでには、続かなかったのが悔やまれた。
そう言えば、最近、Kの家に行ってないなと思った。あいつも忙しいだろうが、たまには、行ってみるか。Kが結婚したての頃は、煙たがられるのを承知で、よくKのマンションに遊びに行った。安い酒を買って持参し、高い酒を飲んで帰るというのが、おきまりのコースだった。奥さんは、大がかりな料理は得意だが、飲み屋で出すような品を作るのは苦手らしかった。
「奥さん、いいですよ。酒があれば」
と言うのも、なかなか難しかった。それは、料理がまずいことは分かっているという意味にもなったからだ。だが、何回か行く内に、だいぶ、酔っ払いの扱いと酒の肴のことも分かってきたようだった。
「いやー。酔っ払った。しかし、Kよ。お前は、いいなー。こんな嫁さんをもらって」
と言うと
「お前も早く結婚すれば、いんだよ」
とKの言葉が返ってきた。
「そうよ、Sさん、だれかいい人はいないの」
と奥さんにも言われた。時には、泊まりもした。
「あのなー。少しは気を回せよ」
とKが言ったが、
「あー。ご心配なく、すぐ寝ますから。後は勝手にどうぞ」
という感じだった。
「こりゃあ、だめだ」
とKもさじをなげていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます