第5話 ○貧ケース

 三日後、現れたのは、男性の二人連れで同性愛のカップルだった。カップルとしたのは、日本では法的に婚姻できないからだ。

 先ず値踏みをする。どちらも三〇歳程度で、スーツも量販店の安物だ。ということは、普通に勤めていれば、年齢からいっても、まだそれほどの収入はないはずだ。靴も時計もありきたりのもので、これといったこだわりもないようだ。このカップルは、夫婦と言っていいのかなと、ちょっと混乱する。先ず、

 医学書に、同性愛というのは、性同一性障害の範疇ではないと記載してあったことを思い出す。とすると、同性愛と性同一性障害は、どう違うんだ。DSM-Ⅴを読むと、同性愛とは「性の指向」の少数者、性同一性障害は「性の自認」の少数者とされている。ということは、性同一性障害で同性愛の人がいるということになる。うーん、複雑だ。

 二人から赤ん坊が欲しいという申し出があった。養子縁組は、成人であれば可能。法的な配偶者はいないから、どちらの子どもにしても良い。法的には、何の問題もない。危惧するのは、子どもに対する出自を知る権利の保証と両親の実態についてのカミングアウトだが、その問題を知らないわけがない。一通り、必要なことを伝え、送付した契約書に署名して返送するように依頼した。

 なお、あのおかしな会社ではないが、希望に沿った赤ん坊が見つかれば、連絡することとした。この夫婦には、○貧ケースと名付けた。

 しかし、この仕事は、一日に二組をこなすので精一杯だ。まず、赤ん坊を確保することの難しさ、その費用についての説明、そして受け入れる親としての覚悟をしっかりと理解してもらわなくてはならない。赤ん坊も人間だ。人間としての扱いが見込めないクライエントは、お断りするしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る