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 最初にそのまなざしを見たのは、一年ほど前だった。


 部活に入っていなかった私と真也は、授業が終わると待ち合わせて一緒に家まで帰っていた。

 私たちは同じ団地に住むもの同士で、思えば小学校のころから登下校をともにしていた。

 近くに彼がいるのが当たり前すぎて、周りにからかわれてはじめて男女が二人だけでいることの意味に気づいたほどだった。


 否定しながらも、まんざらではない気持ちはどこかにあった。

 穏やかで落ち着いた彼に、幼少期とは違う気持ちを抱き始めていたのは確かだったし、不思議と人を引き付けるところのある真也は、みんなからも一目置かれていた。


 だから、いつものように待ち合わせ場所に駆け付けた私に、一向に顔を向けずに、別の一点を見つめ続けている真也に気づいたときは、おもしろくなかった。

 そんな真剣な顔で何を見ているのかと同じ方向に顔を向ければ、校庭の隅で何かをしている宝条有栖の姿があった。


 自由にならない手を一心不乱に動かし、花壇の土をこねくり回している。相変わらず、おかしな姿勢で、例えるなら通話中に両手をあけるためにケータイ電話を頬と肩ではさんだときのような姿勢を維持したまま、人より数倍稚拙な動作で、花壇の土をかき集めては盛っていた。

 制服は汚れ、髪は汚らしくほつれ、昔話に登場する老婆のような体だった。

 

 何あれ、こわ……。と、思ったままを口に出す前に、真也の顔を見ていて本当によかった。彼のまっすぐな視線を見て、言葉を飲み込んでおいてよかった。


「花壇、直してるんだ」


 と彼は言った。彼女が毎日水をやっている花壇の花が、いじめの一環で荒らされていたらしく、それを直していたところだったと後で知った。

 休みの日も欠かさず水をやっていることとか、宝条有栖のクラスでの状況とか、具体的なところを彼がどの程度知っていたかはわからない。

 けれど暗い夜、遠くの空に不意にあがった花火を見つけたときのような、あるいは豪奢な花束の中にそっと紛れ込んだ野花を見つけたときのような彼の優しい瞳を見て、私は電撃に打たれたように失望し、同時に見惚れた。


 彼が彼女のもとへ一歩踏み出したのは道理で、私はたっぷり数秒間その場にとどまったあと、それを追いかけた。


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