食べかけの腐ったスイカ
戸森
第1話
彼女が部屋で死んでいるのを発見したのは私だ。
太い足を投げ出して、白い眼をむいて、首に巻いた電気コードを苦しそうに掴んだまま、腐っていた。
あっけない死だと思った。
私は彼女の死体を、死んでいた部屋のベランダから直で行ける庭に埋めることにした。小さな雑草の生えている土は、思いのほか柔らかかった。
とりあえず隠れればいいだろうと、50センチくらいの穴を掘った。
それでもまあまあな力仕事だったが。
死ぬべき人間はいると思うか。
私はいると思う。
彼女は痛いことが苦手だった。痛みそのものを怖がっているようだった。
ただ、死体は余りにもあっけなくて、私に何の感情も与えなかった。
悲しみも苦しみも喜びも、多分、その死にドラマチック性が皆無だったからだと思う。
だから私は快楽殺人者のように、彼女のそんな手と足を包丁やのこぎりでぶった切れば、少しはドラマチックになるのではないかと考えた。
その血の色は、しぶきは、その死に花を持たせることが出来るのか。
切断された胴体が、見る者に何か感じさせるのだろうか。
死ねればよかったのだろう、彼女はただ。
日常の些細が積み重なって、大きな闇に飲み込まれていく恐怖におびえるくらいなら、痛みを永遠分引き受けて、それで終わりとしたかったんだろう。
彼女の死を見て私は、自分の腕に死なないと書いた。
文字を刻んでいる間の針で刺すような感覚に、一瞬安堵するが、
それもいつか消えてしまうのかと、不安はぬぐえなかった。
食べかけの腐ったスイカ 戸森 @watashi_tensai_ikiru
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