約束

@Gpokiu

アメジスト

(綺麗なアメジストね。)

「えっ、ああ、これですか。」

(どこで買ったのかしら?)

「いやっ、これは妻からの貰い物で、だから。どこで買ったんでしょうか、はは、」

(そうなのね、とても素敵な奥さんだったのね。)


誕生日に妻からもらった、アメジストのネックレス。記念日には、いつもこれをつけて外に出かける。そのほかに目立ったアクセサリーは持っていないため、これだけ首からぶら下げると、目立ちやすくはなるが、そこまで大ぶりのものでもないし、実際、このアクセサリーについて尋ねられたのも、今回が初めてだ。


「ごめんごめん、遅れた。」

(もう、遅いよ。)

(2人でずっと待ってたんだからな。)

「ごめんって。ちょっと着替えに手間取っちゃって。」

(もういいよ、そんなことより急がないと。もう始まっちゃう。)

「うん、行こうか。」


今日は、高校の同級生とのプチ同窓会だ。同窓会と言ってもプチなので、高校時代特に仲が良かった三人だけの会だ。


(今日もつけてるんだね、それ。)

「え?ああ、これね。」

(綺麗だよなぁー。売ったらどれくらいになるのやら。)

「やめろよ、大切なものなんだから。」

(うそうそ、冗談だよ。)


「  」はとてもノリが良く、明るい性格をしているため、みんなから好かれているが、時々そのノリが行きすぎてしまうことがある。このネックレスのことだって話してあるはずなのに。


(娘さんからの贈り物なんだっけ。素敵だよねー。)

(だよなー)

「違うよ!娘じゃなくて、妻からのプレゼントだよ。」

(ああぁ!そうだったっけ、ごめんごめん。忘れてたよ。)

(奥さんからか、そっか。素敵な人ねー!)


三人で一緒に映画をみて、ご飯を食べた。良く「  」から、記念日なのにこんな日常的な遊び方でいいのかと聞かれるが、自分はこれで満足している。


「今日はありがとうね。」

(うん、私たちも楽しかったし。また集まろうね。)

(そうだな。次は遊園地とかどうだ!)

「いいね、それは楽しそうだ。」


「嘘は良くないよ。」

それはそうだ。嘘は他人だけじゃなく、自分も傷つけてしまう可能性がある。

「本当は楽しくなんかないんでしょう。」

まぁ、楽しそうかと言われれば、嘘になるかもしれない。

「あなたは呪いにかかってるの。とても綺麗で、残酷な呪い。」

呪い、確かにこれは呪いなのかもしれない。でも、その呪いをかけたのはあなただ。

「そうね。でもあなたもそれを受け入れた。あなたが私を忘れてしまえば、それですむ話なのよ。」

忘れられるわけないよ。


妻が亡くなったあの日から、俺は毎日アメジストのネックレスを身につけるようになった。そうしないと、妻とのつながりが完全に途絶えてしまう気がしたからだ。そして俺はあの日から嘘をつくようになった。本当の自分を晒すのが、怖くなった。虚構の世界で生きていかないと、自分を保てなくなった。楽しく感じなくても、楽しいという。本当の友達じゃなくて、レンタル友達と遊ぶ。綺麗じゃないものにも、綺麗だという。妻のことを忘れたいと思ったことはないが、忘れられたらとても楽なんだろうと思う。でも、多分俺は、永遠にこのままなんだろう。いや、このままであってほしいと思っている。

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