再会と募金活動


 大みそかまでロンドンで過ごした亮介とみづき、直美が乗る飛行機の前でジョニーやジュリアらが集まっていた。

 「直美。古本市、また参加しようね」「うん。ありがとう」ジョニーは校内の休み時間で編んだ淡い緑の手袋を直美に渡し、抱きしめる。ジョブズが息子の髪をなで、「渡せてよかったな」と声をかけた。

 


 「ジュリアさん、子育ての助言ありがとうございました」「ええ。またマラソンに参加して」ジュリアはみづきに『20キロマラソン完走おめでとう!』と書かれた賞状を渡した。

 


 「亮介!」「茶摘さん⁉」茶摘は息を切らしながら、驚く亮介に茶葉の絵つき付箋40枚を渡し「妻子を大事にしながら過ごせ」と肩に手を置く。「はい」

 エベレストや退院した清一、本の朗読で不眠が改善された元兵士の男性らが『ありがとう』と墨汁と筆で書いた白い横断幕を広げ、亮介に手を振っていた。

 


 「お正月か。早いね」みづきが機内で直美の隣に座り、小声で亮介に言う。3人はリュックサックからノートを出して読み返し、ロンドンで経験した出来事を語り合った。

 

 空港に着くと、温泉小の校長や鷹野らに出迎えられた。校長はキンモクセイの木からできたマラカスを振りながら歓喜している。

 「亮介。ロンドンはどうだった?」鷹野に聞かれ「さすまたの訓練で手にマメができて、バーで巨漢の猛攻をかいくぐったな。ロンドン警察音楽隊とのコンサートや、ラジオ番組で本の朗読もした」と答えると嬉しそうに笑った。

 




 『便箋と封筒の店 高見』の入り口で、強一と実直が募金箱を持って呼びかけをしている。

 「亮介先生!富山と石川、新潟に送る募金を集めているんです」強一が言い、「懇意にしている海苔の販売店が津波で損傷し、母が気落ちしていました」と実直が付け加えた。



 「みづき先生!」ジルが駆け寄って来て、「新潟で草餅を作っている女性と連絡が取れない」と涙ぐむ。「ラジオなら聴いてるかも。温泉小の給食室を使わせてもらおう」

 ラジオをつけ、『温泉小カウンセラーのジル・ブライト・ミールです。弟のジュードから、お寺で手作りの草餅を渡してもらったと聞きました。ありがとうございます』とボイスメッセージを送った。


 『ジル先生。店は全壊したけど、私と看板インコのホンちゃんは無事で、避難所にお汁粉を届けながら過ごしています。ありがとう』女性からの返信を聞いたジルは「お汁粉いいな」と笑顔を見せた。



 『子ども食堂 キンモクセイ』では輪島塗のお椀に白エビの天ぷらが山盛りにされ、18歳の男子が「ふるさとの味だ。おじさんが漁師で、よく作ってもらった」と落涙。実直がフェイスタオルを渡し「温泉小と源泉中、銭湯高校でも給食として出されるぞ」と言うと「要望が多かったらしいな」と嬉しそうに答えた。

 





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