閑話 建て直されたパブにて


 灰色のベストと濃い茶色のコートを着た亮介はみづきと直美、オータムを連れてテムズ川の周りを歩いていた。

「石畳が湿ってるな」「雨が降って、強風が吹き荒れてたね」みづきが答え、「大荒れになるって」と付け加えた。「飛ばされた木もある」直美が老木をなで、「ごつごつしてる」と言いながら手についた土を払い落とす。

 「テムズ川に浮かぶ新聞紙や容器が減ってる」驚くみづきに「『スポGOMI大会』の開催後、清掃活動が増加したらしい」と亮介が答え、トングでゴミを拾う真摯とエンリケに手を振った。


 賢哉と受刑者たちにより建て直されて広くなり、シャワー室もついたパブに入ると、みづきが「マチルダさんと巨漢、ロンドンから追放されたね」と小声で亮介に言う。「ああ。庭師とインコの写真家になるらしい」

 

 「亮介。直美はオータムにも『さびしい』って打ち明けてた」「そうか。温泉小での

勤務が増えて、 帰宅が遅くなってたな」亮介は直美を抱きしめると、「ごめんな」と

謝る。

 

ジョニーと一緒にひらがなの練習を終えたエンリケが「日本語って難しい」と言いながらブルーベリーケーキを食べる。「勉強できる場があるのは幸せなことだ」真摯がエンリケの頭をなでた。

 「ジョブズさん。『軍を壊滅させたい!』って言ってごめんなさい」「俺はマンボを爆撃から守り、避難していた時に飛んで来たミサイルで片足を失った。廃墟となった街を歩くとつらくなって、眠れなかった」

 ジョブズは黒いズボンをまくってキンモクセイの老木からできた義足を見せ、「マンボはコッツウォルズにいるぞ」と嬉しそうに言って大声で泣くエンリケを抱きしめた。

 

 「ジョニー。『Young Flowers』の前でけんかした時、足を腫れ上がらせて悪かった。古本市、行ってみたい!」「僕のパパも入れて3人で行こう。400冊が並ぶんだって」「ああ!」


 亮介とみづきは茶摘から渡された黒のタキシードと胸元がすべて隠れるベージュのドレスを着用し、ケルト音楽に合わせて踊る。 「みづき。踊り明かすぞ」「うん」亮介の唇がみづきのほおに触れた。


 



 

 

 

 

 


 





 



 


 




 

 



 



 



 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る