立てこもり犯の正体


 ―――12月24日。みづきは直美と手をつないでハンカチ店へ。「直美。誕生日だから2枚買うよ」直美は店内をくまなく見ながら熟考し、ジンジャーブレッドマンが描かれた淡い緑とベージュの2枚を見せてきた。「毛糸の帽子が緑と赤のジンジャーブレッドマン?」「うん」「わかった」

 


 「ありがとう」直美は買ってもらったハンカチを嬉しそうに見てから、盗難防止用のリュックサックにしまう。「お腹すいたね。サンドウィッチ食べる?」「うん!」

 二人は20キロを走り終えたジュリアの後ろに並び、カイロを振りながら長蛇の列が途切れるのを待った。

 

 石段に座ってサーモンとレタス入りサンドウィッチを食べていた二人に向かって立てこもり犯がレンガを投げ、1個がみづきの足に当たり腫れ上がらせた。

 直美はベンチに置いたリュックサックから紫色の風呂敷を出すと、細い筒状にして母の足に巻き、木でできたスプーンで水の入ったグラスを鳴らす。テムズ川の前にいた亮介が妻と娘に駆け寄り、ハンマーでレンガを粉砕した。

 『Young Flowers』の夕方ニュースで、立てこもり犯がマラソン仲間のサンドラだと判明。呆然とするみづきの前に、亮介が湯気の立つレモネードとレモンの皮入りクッキーを置く。手には連日のさすまた訓練によるマメができていた。

 


 「亮介、直美。ありがとう」「ああ。1週間安静にな」「60代先生の救急の授業で、ジョニーに教わったの」3人は椅子にかかっていた茶色の毛布に足を入れ、温まる。

 デンキウナギのマーブが尾で窓をたたき「水道管の凍結でお湯が出なくなるらしい」と手袋と靴下、コートを3人に渡す。「ありがとうございます」「ドカ雪でトラックの横転が増加している。気を付けろ」マーブはパブや美容院の場所と緊急時の迂回路が書かれた地図をみづきに渡し、テムズ川に戻った。



 「直美も10歳か」亮介は「ペレたちが市場で売っていた」と言ってクリスマスツリーとテムズ川の絵つき栞を娘に渡す。「ありがとう」「色鉛筆とペンキで描かれてる」とみづき。

 「ああ。廃棄された海図から作られているらしい。ペレとアプリコットによる、画用紙やスケッチブックの絵をもとにした虐待防止ステッカー作り体験も開催されていた」直美は嬉しそうに栞を見つめ、古本市で購入した画集に挟んだ。



 『ツリーをへし折った巨漢はハンマーと砂利入りのビンを持ち、コンサート会場付近をうろついています。ホテルや家から出ないでください』ラジオからフランクの声が流れた直後、ひたいに薪の刺青を入れた巨漢がハンマーで窓を粉砕した。

 みづきは直美を砂利から守りながら、丸めた古新聞で亮介の襟をつかんでいる巨漢の坊主頭をたたいたが、通りにある無人のパブへと逃げられてしまった。



 



 

 



 



 


 

 




 

 


 



 






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る