ロンドン編 茶摘、オータムとの再会


 ―――11月。40種類の茶葉が置かれた緑色の屋根の紅茶店に向かうと、42歳の店主・茶摘静雄が嬉しそうに3人の前に輪切りにしたレモン入りの紅茶とアボカドサンドウイッチを置き、近況を聞く。「多忙で、寝られていません」「そうか」

 茶摘はバラの老木からできたドラムを床に置くと、亮介の演奏に合わせてみづきや直美とかけ声を入れた。

 


 「ありがとうございます」「活力が出てきただろう?」茶摘は輪島塗の茶碗を棚にしまい、「パブでコンサート中に、楽器がハンマーでたたかれ破損する事件が相次いでいる」と憤る。

 「犯人は捕まったんですか?」みづきが聞くと「いいや。タルトの実弟で羽が白いセキセイインコ・マカロンが追跡している」と答え、亮介はむせてしまった。

 


  「紅茶とアボカドサンド、おいしかったね」弁当の容器が浮かんでいるテムズ川沿いを歩きながら、みづきと直美が嬉しそうに言う。「ああ。おつまみも豊富だ」

 ふかふかの芝生でくつろいでいたチェコスロバキアン・ウルフドッグのオータムが淡い茶色の目で亮介を見つめ、しっぽを回した。あくびをするオータムの冬毛をなでていると、「田原家の大黒柱!」と背後から野太い声がし、巨体を持つ無毒のヘビ(ボア・コンストリクター)が亮介に近づいてきて、茶色い瞳が細められる。

 「源次郎の義父、ヒュージだ。マーブ、間欠泉!3人を『Young Flowers』へ」


 地図を常時2枚持ち歩き熟読するオスのデンキウナギ・マーブと『ゆ』とオレンジ色の筆字で書かれた白い鉢巻きを頭に巻いたカミツキガメの間欠泉が、淡い緑色の建物を指す。

 「『Young Flowers』は、SNSを一切使わないラジオ局として有名だ」マーブが説明し、「相手のことを詮索しない」と間欠泉が付け加えた時、2階から葉書を読み上げる声が響いた。


 「職業体験についての質問は、木曜日までに葉書で『Young Flowers』に送って!」昼の放送を終えた司会の男性がソファに座り、くつろぐ。「睦月。源次郎と長者の知己だ」「ええ⁉」睦月は慌てて身だしなみを整え、入り口に行く。

 

 「『カフェ&バー 月明かり』店主、天原睦月。1階は朗読室で、炊き出しの時にも使われる」階段を上がって2階に行くと、バグパイプ奏者のフランクと妻・ローズが亮介とみづき、直美に会釈する。

 「待合室や相談室には本が置かれ、防音カーテンも設置。学び直しの場にもなっている」睦月は胸元につけられる名札を3人に渡し「立てこもり事件にも注意して」と小声で付け加える。


 丸椅子に座ってレモネードを飲んでいると、英国空軍司令官ジョブズの息子ジョニー・ブックワームと、ガザ生まれで8歳の男児エンリケがけんかする声が『Young Flowers』の前で響いた。


 




 


 




 



 




 




 




 





 

 



 



 


 

 

 

 


 

 



 



 



 


 



 

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