親と交際相手の弱体化活動『ビーヘイバー』


 亮介とアキラは源泉中の校門前で、189の通報を受けた後の行動確認を行っていた。「鶴岡八幡宮で源次郎さんたちと合流して現場に行き、声がするか確認」「畳の下や押し入れ、車内も調べましょう」「ああ」



 「子どもを暴行・置き去りにする親と交際相手の弱体化活動を『ビーヘイバー』とし、ハチだけでなくインコとムカデ、ヘビ、カメも参加!児相より迅速に、子どもを保護!」源次郎が呼びかけると、羽やヒレ、足を鳴らす音がコイの池に響いた。

 (団結力が強固だな)(ムカデが多い‼)五円玉を賽銭箱に入れ終えた時「亮介、アキラ!189の通報だ」と源次郎に呼ばれ、『巡回中』と書かれた名札を首から下げた。

 

 換気扇の上に置かれたオレンジ色のサンダルに止まっていたタルトが「大阪・道頓堀・たこ焼き屋、ピッ」と源次郎たちに合図。変色した畳の下に、顔と足が赤く腫れ上がった4歳の男児がいた。

 亮介は長者の口から抜けた歯で畳をはがし、厚手の毛布にくるまった男児をアキラに渡す。タルトが男児の同居相手で30歳の男に向かって「子どもを置き去りにしたらいか―――ん‼」と絶叫した。

 激怒した源次郎によって腕力を弱められ、長者が飛ばす特大の雹とあざだらけのミミズ・沃土の冷水シャワーで体温が低下した男は寒さで歯をガチガチと鳴らしながら出て行き、男児は寺で保護されることになった。



 400年前から続く『便箋と封筒の店 高見』の6代目店主で18歳の高見強一は手すきの和紙と丈夫な折り紙でできた便箋を棚に収納し、メスの黒柴・ようかんとくつろいでいた。夕刊を取ろうと郵便受けを開けた時、植え込みに潜んでいたアリに親指を刺され意識を失った。


 1階の居間で体を起こすと、亮介が「長者さんの知恵で、激痛とふらつきがおさまった」と言い長者をちらりと見る。

 「ありがとうございます」強一は抹茶色の座布団に正座し、長者が持参したミカンを食べる。亮介は丸椅子に座り、持参した文庫本2冊を黙読した。

 


 「あのアリは体にたまった毒が抜けず、子どもを死亡させた成人を堆肥に変えている。両親に置いて行かれ落命し、温泉小と鶴岡八幡宮の周りをうろついていたのだ」 

 長者が憤慨しながらニンジンを食べ「沃土は風呂場で息絶えた幼いおなごだ」と付け加えた。


 

 「強一。秋の封筒と便箋はあるか?」「はい!」亮介はモミジの絵つき便箋と封筒を購入し、強一に500円玉2枚を渡す。「お買い上げありがとうございます」強一は駅へと向かう亮介に向かって深く頭を下げ、店内に戻る。

 玄関の前に、鉢から出された土で『ごめんなさい』と書かれている。落涙するアリに強一が笑顔を見せると、体から毒が抜け着古したパーカーとズボンを着用した4歳女児に戻り、コイの池にある墓へ戻って行った。

 



 

 


 


 

 

 


 



 

 

 


 




 

 


 

 

 

 

 


 

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