Epilogue-2.同。~旅に出よう。二人、クルマで~

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~~~~案外、まだ若い子に混じってもいけるもんだ。おっと、ボクはまだ12だったな。


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 両国併合の件は、ボクの友達らにも、大きく影響がある。



 ベルねぇはこの件を受けて、しばらく選挙は安泰だと言っていた。


 自分の能力の研究に、専念できるだろうと。


 併合によって、制度にも変化が出るだろうが、そこはギンナがうまく立ち回っているらしい。



 見込みアリと、コーカス・ファイア大公もギンナがベルに嫁入りすることに乗り気なんだそうな。すげぇな。


 王国大貴族の令嬢が、共和国の王にかしずく日も近い。



 ミスティとメリアは今まで通り。


 しかし帝国、共和国、聖国が落ち着くことで、彼女たちの計画は佳境に入る。


 聖域建造の手配も順調。あと数年もすれば、この半島は劇的な変化を遂げる。



 半島の恒久的平和を成し遂げるという、前人未到の冒険を成し遂げて。


 そしていずれは、さらなる旅に出るだろう。


 どこまでもついていくメリアも、どこまでも手を引くミスティも、とても幸せそうだ。



 スノーとビオラ様は、王国内の政争を優位に進め、地盤を固めつつあるそう。


 ま、ここは心配ねぇな。


 スノーは見るたびに頭を抱えているが、ボクの先生がついてるんだから、大丈夫だ。



 何より。二人はたまに、人前でも「伴侶」の顔を見せるようになった。


 大きな使命を終えて、落ち着いたからだと思う。


 妹が恩師を愛でる様は、未だに脳がおかしくなりそうだが……とても尊くも思う。



 そうそう。マリーとダリアは……ダリアが卒業したら、しばらく休みたいと言って来た。


 目的に触れるのは、野暮ってもんだ。


 たぶんマリーがその未知を知る予言の力で、「できそうだ」って結論したんだろうしな。



 マリーはまだしばらく助教を続けるので、まずダリアが……なわけだが。


 前の時間の頃は、彼女がそんな未来に辿り着けるとは、思ってもいなかった。


 とても嬉しいし、感慨深い。



 エイミーとマリエッタは、この夏やっとマリエッタの実家にご挨拶だ。


 エイミーは、ここんとこ自信満々絶好調。


 最近はボクもあっちの手伝い、してるからな。人型魔道具は、連邦で密かなお披露目となるだろう。



 もちろんそれは……「マリエッタ」だ。エイミー作の。


 年単位でかかると思ってたが、なんとマリエッタが温めていたという設計図をお出ししてきた。


 素晴らしい仕上がりで、仕様書もばっちりあって。



 エイミーは「負けた!!!!」と嬉しそうだった。


 マリエッタは……澄んだ、綺麗な瞳でエイミーを見ていた。



 マドカとアリサは、まだしばらく普通に学生だ。


 ギンナのお墨付きもあり、将来は王国貴族になる見込み。


 シルバの分家としてのスタートかね。



 だがゆくゆくは、新たな大貴族になるだろう。


 愛の印の精霊の加護を受ける、家として。


 閃光を受け継いだ二人の淑女は、きっとその道を駆けあがる。



 ボクらの娘、クエルとシフォリアは、大仕事も終わって日常に戻っている。


 成人だし結婚してもいいわけだが、スノーたちが落ち着いてからだしね。


 旧王都・エングレイブの領主となるとき、成婚となる見込みだ。



 現時点で貴族の娘と公表はしてないし、お誘いもない。


 対応すべきこともないし、ゆっくりでよかろ。


 もう少しだけ、娘でいさせてあげよう。二人だけで立つ、その日まで。



 皆、それぞれの未来を見つけつつあるが。


 今は我が家たるパンドラや、母校たるこの魔導学園で、のびのび過ごしている。


 学園生活はもっと荒れるかと思ったが、最近は平和なものだ。



 正直、もっと決闘やらお誘いやら痴情のもつれに巻き込まれると思っていた。


 けど休園明け以来、トラブルは起きていない。



 トラブル……魔晶人も湧いてこないしな。ちゃんと全部倒しきったし。


 ダンジョン内も、シフォリアたちが確認したそうだから。もう不穏はないと思いたい。


 神主や邪魔ヤマ、その他もろもろも吹っ飛んだわけで。平和であってほしいね。



 しかし。学園にいたら声くらいかけられそうなくらいには、皆美人だけど。


 だいたい二人以上でいるから、面倒事は早々起こらないのかな。


 ボクの時とは、えらい違いだ。ボクは学園では割とボッチだったからな。



 当時の経営戦略科は、ストックとボクだけだったんだよ。


 授業が全部同じなわけじゃないから、よくボクは一人になってた。


 そういうところを、こう、狙われたりしたんだよなぁ。懐かしい。



 その頃から……体感的には、何十年と経ってる。


 そしてあの日々からずっと、ボクの人生は。


 君と共に在る。



 左手薬指に隠された指輪を、そっと見る。


 あと二年ほどすると、ボクらは一つの節目を迎える。


 それからは領主にもなるし、忙しくなるだろう。



 だからそれまでの間は。


 乙女ゲームを破壊攻略し尽くし。


 人類と、自分たちの未来を勝ち取った――――



「ストック」



 この愛しい人との、ボーナスステージだ。



「なんだハイディ」



 柵に、腕を組んでもたれかかり。


 そこに、頬を沈め。


 流すように、我が伴侶を見る。



「夏休み。どうする?」



 ストックが、ボクを覗き込んで来る。


 赤が、少し交差する。



 目の端で、また少し長くなった銀の髪が、風に揺れて。


 綺麗だ。



「旅に出よう」



 ちょっと、笑ってしまった。


 半島でも地球でも、旅に出ればいろいろあったというのに。



「君も懲りないね。クルマで?」



 ゆっくりと、ストックが目で頷く。


 とても、嬉しそうだ。



「ほら、キッチンカーがあったろ。


 あれでネフティスを大型化しようって、言ってたじゃないか」



 キッチンカーは、ボクのお披露目のときに作ったやつだ。


 以降、たまに使われている。



「あー、いいねぇ。キャンピングカーの旅か。


 ってことは、ちょっと長距離か?」


「そうだな。……だが。


 行ってないところなんて、半島内だと帝国くらい、か?」



 なるほど、実にいいじゃないか。



「見納めになる。ちょうどいいだろ?」



 解散は来月だが、魔境化は段階的に行われる。


 いずれ、人の住むところではなくなり。


 さらに未来では、魔物と人が暮らす土地に、なるだろう。



 旅をするなら、今年のうちだな。



「おおそうか、無くなるのか。そりゃあいい」



 すげぇ嬉しそうな顔しよるね。


 君もそうだが、ボクの友達はみんな帝国嫌いだよなぁ。



「乗り気だね」


「帝国横断、ざまぁみろの旅だ。


 私にさんざん苦労を強いたところを、片っ端から笑ってやる」



 なんぞそれ。わろてしまう。



「君、たまにいい趣味してるね。賛成だ。


 西に行って、東をゴールにするか?」



 噂に聞く、面白辺境伯に最後に会おう。


 ぜひ、会食で出す木彫りを見てみたい。



「そうしよう。食料だけは、しっかり積んでな」


「いっそ物品輸送か、生産できるクルマ作ってやろうか。


 現地での仕入れは絶望的だろ?」


「奪われる可能性はあるが、得られるものはないと思っていい」


「全持ち込みじゃねぇか。しっかり備えるか」


「そうだな……おっと」



 予鈴が、聞こえる。


 午後の講義に、行かなくては。



「行こうか」



 柵から離れて。



「ああ……ん?」



 少し背の高い、彼女の頬を撫で。


 そのまま、背伸びして。


 唇を、重ねる。



 すっと離れ。



「あとは夜に」



 言って行こうとしたら、両肩を掴まれた。



「さぼろう」


「ダメに決まってんだろ落ち着け」


「私は冷静だ。


 いや、ちょっとディープなやつをすれば冷静になるぞぅ?」



 なんだそれは脅しかストック。


 耐久ディープで、すっかり癖になっちゃったかなぁ。


 しょうがない、やる気出してもらいますか。



 もう一度、頬に手を添えて。


 ストックが、ボクの肩と腰を抱き寄せて。



 ……おっといけない。



 ――――すまないんだけど、神様たち。



 ボクのキスは、激しいんだ。


 人には見せれない奴だから、ごめんね?


 ほかのとこを、見に行ってくれたまえ。



 ずっと応援してくれて、ありがとう。




 ばいばい。




――――――――――――――――


Fin.


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