X-B-2.同。~大事なことを。幸せを、ぬくもりを、確かめて~【シフォリア視点】

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~~~~よかった。ちゃんとみんな、ぶじで。本当に……よかった。


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 パンドラの宿泊施設エリアは、あんまり使われることは、今はないんだけど。


 でもたまに非日常感を味わうために、ある種のレジャー施設として解放されている。


 その一室をとって。私はベッドに寝ころんだ。



 うおー。仰向けでもまだちょっとつらい。



 クエルがすぐそばの、ベッドの端に腰かけて。


 私の髪を……優しく手で梳いていく。


 頭も、撫でて、くれて。



 きもちぃ。ねそう。



「お風呂どうする?入れる?」


「うん……少しぬるめになってからはいろ」



 空調は効いてるけど。


 今は夏真っ盛りで、暑めだからね。



「ちょっと待ってて」



 ぁ。


 ん……クエルが行っちゃうの、ちょっと寂しい。



 給湯の魔導を起動して、すぐ戻ってきてくれたけど。


 何かこう、甘えたい……。



「クエル」



 私が呼ぶと。


 クエルが身を近づけて、私の目を覗き込んでくる。



「……何さ、そのかわいい目は。


 ダメって言われたでしょ?」


「ちがうし。そうじゃないし」


「違うんだ。残念」



 ぁ。


 また、はなれる。



「…………だめ、なんでしょ?」



 気づいたら袖をつかんでた。



「…………だめ」



 でも、袖から、手首、手先、指と、絡めて。


 離せない。


 手も、目も。



「どうして、そんなに、とおくにいるの?」


「僕もおなか重いから」



 吹いた。


 くっそ、おなかに響く。



 もー。確かに私がど真ん中に仰向けになってたら、隣には寝られないけどさ。


 もうちょっとこう、やりようがあるんじゃないかね。かね?



 ずりずりと背中で這って遠ざかり、場所を空ける。


 これで来なかったら引き倒してやる。



「……おまたせ」



 近い近い近いって!?



「なんで横向きでそんなに近いのおなか重いんじゃないの!?」


「肝臓が上になるから、この姿勢が楽」



 そうなの!?胃が上になるほうじゃないの??


 あ、だめだってこら髪をはむるな。


 この、こっち動けないってのに。



 …………おっと。私の右手が自由じゃないか。



 クエルがすっと離れた。



「…………そういうとこ触るのはどうかと思う」


「太もも撫でるのくらい、許されるのでは??」


「なんでそこから行ったのさ。


 ほら……ここ回して」



 私の、右腕が、クエルの体の下、脇腹あたりから、後ろへ。


 こ、ちょ、ここ撫でていいとこじゃないよね!?伸ばしたらつかめちゃうとこだよ!!


 というか腕とか脇腹に柔らかいものがめっちゃあたる!!当たりすぎる!!



 君でかっ、でかいな!?



「ふふ。慌ててる……かわいい。


 というか。驚いてる?」


「なんでしょうこのさいずかんは」


「ああ。なるべく着替えとかお風呂、分かれてするようにしてたからねぇ。


 知らなかったのか。


 僕、ここんとこで二つほどサイズ上がったし」



 どこからどこにあがったんですかね!?



 その、ですね。


 いわゆる良い仲になってから、二人っきりで寝るの。


 今日が初めてでして。



 考えたらあかんのではないか!?この状況は!!



「……しりたい?」


「のうがとけそうなのでだめです」



 うそです。囁かれてもう融けきっております。


 あと知りたいけどこれはダメな奴。聞いたら想像しちゃう。


 着やせというやつなの?現実にこんなことあるの??



「僕は――――」



 ――――――だよ。



 んああああああああああああああああああ!!


 囁かれてはダメな情報がいっぱいきた!?


 なんだその破廉恥なお体は!!



 本当に私の姉妹か!?違ったわ!!



 ああああ……目が腕の中のクエルに吸い寄せられるぅぅぅ。


 ってその服そんな胸元緩かったっけ!?


 見えてる、見えちゃだめなやつ!!



 お姉ちゃんちょっとやらしいですわよ!!



「ん。シフォリアもちゃんと僕に興奮するんだね。


 ……一緒だ。よかった」



 おぅ?



「僕らは同性愛者じゃないから、ちゃんと生理的嫌悪がないか確認しとけって。


 お母さまが」



 あのかーちゃん何を娘に吹き込んでるんじゃい。


 ああでも……大事なことなのかな?



「私は正直、考えたこともなかったよ。


 クエルがダメとか、ありえんし」


「姉のクエルで想像してごらん?」



 ん……ちょっと記憶の彼方だけど。


 紫で少し白、もっとさらさらした髪の、お姉ちゃん。



 …………う”。



「あ、ごめん」



 危なかった、尊厳が漏れるところだった。


 クエルが謝って、ちょっと頭撫でてくれてる。



「…………んぐ。大丈夫。


 でもおなかいっぱいのときにこの想像は、よくない。


 すごいものがきた」


「だよねぇ。僕も、妹のシフォリアはダメだよ」



 そうなのか。


 さすがお母さまだわ。


 これがあったら、恋愛どころじゃないよ。即撃沈してお別れだよ。



「お母さまも、結構悩んだらしいんだよね」


「そうには見えない……お父さまにすごい一途なのに」


「だからだよ。ストックお母さま以外はなんでダメなのか?って」


「ほー」



 なるほどねぇ。


 確かに悩みはした、かな?



 こいつお姉ちゃんじゃねぇ!って会ってすぐになって。


 ちょっと喧嘩して。


 ……仲良くなって。



 一緒にいるうちに、信じられないくらい、好きになって。



 一応姉妹のはずだし、女同士だし、なんで??ってのは。


 言われて見れば、確かに私もちょっとは悩んだわ。



 でもすぐに。


 この子はここにしかいないんだから、それでええやろ、って納得したけど。



 三千世界でここにしかいない子を、好きになったのなら。


 そら性別とか、血とか、なんとかするしかないじゃないさ。


 もっと大事なことがあるんだよ。



 いや、世間的にそうじゃないってのは、わかってるけどね?


 だめなら、世間から離れるくらいは、覚悟するしかないんだよね。



 自分が生きられる場所は、自分で探すしかないんだ。


 私のそれがクエルの隣なら、私はそのためにすべてを注がなきゃ。



 飢えようとも。


 修羅に堕ちようとも。


 ここが、私の居場所だ。



 …………やわらかすぎて、ちょっとここは天国ではありませんかね。



 あ、太もも乗せてくるのはだめだってほんとだめんああああ!


 こい、こいつ、この姉っ、酒でも飲んでるんじゃねぇだろうな!?


 私が動けないからって!確認は済んだんじゃないの!?なんで再開したの??



「シフォリア……いい匂いがする……」



 そういえばこいつ、一緒だとか言ってたわ!興奮してんのかよ私に!?


 うっすいこの体のどこに興奮余地があるんだ!


 ちょっとあれ?押さえ込まれてる?力つよ、強くない??



「しちゃ、だめだよね?」


「…………だめ」



 よくがんばった私の理性!



「じゃあ、君がダメになるまで――――誘惑する」



 だめだあああああああ!!もうおしまいだああああああ!!



「……そんなにだめなの?」


「いいけどだめ。とまらなくなる」



 私一度始めたら止まる自信はないぞ?


 そんな経験ないから、加減なんてできるわけがねぇ。



 今お子さんできるのはダメって、がっつり止められてるし……。


 その前に止まれるかなんて、わかんないよ。



 というか何の説明も受けてないけど。


 女同士でどう作るんだろう???



「僕もそう思う。


 寸前で止まるなんて、器用な止め方、無理だもんね」



 やわらかいのが離れる。はなれ、ちゃう。



「…………そういう顔するから、僕は引っ付きたくなるんだけど?」


「…………しらない」



 まだクエルを見てたいけど。


 いろいろもう限界なので、そっぽを向いた。



 でも……本当に、幸せ。


 私はこういう、ハッピーエンドが好きなんだよ。


 ちょっと甘すぎて、恥ずかしすぎるけど。



 私を押さえ込んでいたクエルの手が、私の手を、強く、握り込んでくる。


 しっかりと……握り返す。


 もう、離さない。ずっと、一緒。



 ――――お姉ちゃん。



 私の中の、クエルお姉ちゃん。


 もう私、大丈夫だよ。


 大事な人ができたの。いっぱい幸せなの。



 お姉ちゃんのくれた、祝福が。


 繋いでくれた、私の命が。


 凍えるようだった、人生を……変えてくれた。



 今、とても暖かい。

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