XーBー1.聖暦1091年6の月3の日。パンドラ。すべてが終わった後に【シフォリア視点】

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――――相変わらずお母さまは滅茶苦茶で、お父さまは残念かっこよくて。クエルは……大好き。


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 地上に出てから。


 パンドラの屋上まで、クエル、スノー叔母様、ビオラ様と来て。



 言われた通り、「目印」が見えたので、道を斬り開いてみたら。


 お父さまとお母さま、めっちゃベッドで抱き合って寝てた。


 致してるところじゃなかったのは、幸いか……。



 でもほんの僅か見ない間に、ずいぶんだらしなくなったなぁお母さま。


 服が脱ぎ散らかされてるし。どうしちゃったのさ。


 お父さまは相変わらずだけど。



 あと二人とも……すごい綺麗でびっくり。


 それなりの年齢、のようにも見えるんだけどなぁ?


 これがいい年の取り方、ってやつ?



「ん。概ね指定通りのタイミングだ。ありがとうシフォリア」



 御年は変わってるはずだけど、不思議とお母さまの声は……変わりがない。



 お父さまはもそもそと起き出して、服を着ている。


 …………お母さまはいつの間に着替えたの?


「えっと、ここ維持しとくだけでいいの?」


「うん。そっち渡ったら、ボクらは姿が戻るはず。


 シフォリアは、こっち来ちゃだめだよ?」


「いかないよぉ。そっちにはクエルがいないもの」


「さすがボクの娘だ」



 にやりとするお母さまのお顔が、ほんとに変わらない。



「あれ、その。ほんとに普通に、かえってこれ、そう??」



 隣でクエルが、不思議そうな顔をしている。


 スノー叔母様と、ビオラ様は、何かを諦めたようなお顔だ。



「そゆこと」


「そんな馬鹿な……」



 スノー叔母様の呟きが聞こえる。


 お気持ちは分かる。でもお母さまだし。



「ちょっと実験するから、そこどいて。シフォリア」


「はーい」



 私が場所を空けると。



「ほい。ほい。ほい……お、これはダメか。予想通りだな。


 これもかな?まぁそうだわな。


 受け入れられない、と。


 そして受け入れられないものに対して、物理的な干渉が可能、と」



 お母さまが、モノを投げ込み始めた。


 カバン、服とか、食べ物、お酒?あと……筒のような何か。


 そして明らかに爆弾っぽいもの。



 筒と爆弾は、斬れ目を通ったら無くなった。



 …………お母さまはなんでそんな物騒なもの持ってるの?


 お父さまがめっちゃびっくりしてるよ??



「この斬撃による位相固有のものとみるべき……ではないかな。


 そちら側に渡った瞬間に、消えている。


 法則の問題ととらえるべきか。


 なら、やっぱりボクらが普通に戻って大丈夫だな」


「それなんだが姉上。精霊に干渉とみなされないのか?」



 地球からこちらの世界に干渉した神主たちは、ソルとルナに排除された。



「違うよスノー。ここまでがお役目。


 ストックは元々、そっちの世界を何とかするために、地球に送り込まれたとみられる。


 地球での『後始末』までが仕事。


 それが終わったから、あとはそちらの世界の住人として、帰るだけなんだ」



 ん……何かお母さま、隠してる、ような?


 ちょっと具体的には、わからないけど。



「なるほど。そちらに置きっぱなしも、干渉可能性を残してしまう。


 だから戻るまでが仕事なのね?ハイディ」


「そうですビオラ様。ま、予測ですが。


 ダメならボクらは、こっちに押し戻されます。


 ではどーん!」


「おわー!?」



 お父さまが押し込まれて、こっちに転がり込んで……ちっちゃくなった。


 いやちっちゃいってって言っても、私より背ぇ高いんだけど。


 さっきの方がすらっとしてかっこよかった。ってことは、まだ伸びるのか。



 私も、もちょっと大きくなりたいなぁ。


 すごい食べてるんだけど。運動もしてるんだけど。あと何が必要だろ?



「よいしょっと。ただいま」



 お母さまもやってきた。仄かに緑に光って……何か呟いてらっしゃるけど、聞こえない。


 しかしいつもの、ちっちゃかわいいハイディお母さまだ。


 さっきはお父さまと同じくらいあったのに、落差が激しい。



 …………ご無事で、本当によかった。



「じゃ、閉じますよ」


「ん。お疲れ様」



 私が、左手をかざすと。


 向こう側は、すぐ見えなくなって。


 斬れ目が、なくなっていく。



 我ながら、原理がさっぱりわからないなー。


 どうなってるんだろうね?これ。


 よくわからないけど、いつも雰囲気で斬っている。



「ほんと、姉上は滅茶苦茶だな……」


「そりゃあボクは、ストックのためなら、何だってするさ。


 君だって似たようなもんだろ?」


「違いありません」



 お母さまとスノー叔母様が、姉妹でわるーい顔して笑ってる。


 というか、お母さまの周りはそんな人ばっかりだと思う。


 もちろん、娘の私とクエルも含めて。



 ん……これでひと段落、かな。



 神主は、みんな倒した。


 クストの根だって、もういない。


 邪魔ヤマも全滅。呪いの祖だっていなくなった。



 半島情勢とやらで言えば、聖国も悪さできなくなるし。


 帝国はいずれ解体されて……共和国はベルさんたちが抑えるだろう。



 そしてもうしばらくすれば、私とクエルは……結婚、して。


 子どもも、いける、らしくて。


 なんだろうねこれ。



 そりゃあ辛い目にもあったけどさ。


 私なんて、適当に棒振りしてただけなのに。


 こんなハッピーエンド、いいのかな?



「シフォリア」



 クエルに、手を……とられた。


 ん、人前なんだけど。なんでそんなに指絡めてくんのさ。


 私、そんなに不安そうな顔、してたかな?



 そういえば……もうお互い、エルとリアって、呼び合わない。


 それは、互いの姉妹の呼び方、だからかな。



 この人は私のお姉ちゃんじゃなくて。


 …………やっぱ旦那様、かな?



 顔赤くなるから、指すりすりすんのやめませんかね。


 恥ずかしい……。



「よっし。娘どもがいちゃつきだしたから、撤収。


 ご飯にでもするか」


「「「待ってました!」」」



 声が思いっきり重なった。


 ビオラ様わろてるし。お父さま肩が震えておる。



「頑張った子たちを、持て成してやろうじゃないか。


 向こうで磨いた、ボクの腕前が火を吹くぜ」



 やったぜ!




  ◇  ◇  ◇ 




 あの日からしばらく。


 もう食べられない動けない……。



 今日は6の月3の日。


 つまりお母さまやお父さま。あとスノー叔母様とビオラ様の誕生日だ。



 お母さまは自分の誕生日なのに、ありとあらゆる麺を打ち。


 見たこともない肉や魚の料理を出し。


 ケーキを何ホールも焼いていた。



 やっぱり、たまに手が霞んで目で追えない……。



「なんで祝われるほうが、ひたすら作ってるんだろうね……」


「去年もそうだったじゃないか。どうせ後で、ストックお母さまが持て成すよ」



 あー……そうだった。


 お父さまが贅沢なお料理を作って。


 それをひたすらあーんして食べさせる、激甘空間……。



「今日は他所で寝ようか、クエル」


「そうしよう。お邪魔というより、あれは一緒に居ちゃダメな奴」



 重い体を持ちあげ……ようとしたら、クエルが手を差し伸べて、くれて。


 手を取って、立つ。


 だから人前だってば……。



「ストックお母さま、僕らは先に休みますので」



 クエルが、通りかかったお父さまを呼び止める。



「ああ……言いつけは守るようにな?」


「分かってます」「だいじょーぶです」



 なんだその唇に人差し指当てたポーズはお父さまかわいいか。


 あとむっつりさんめ。そんなことしないっつーの。



 …………まだ、しないんだから。

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