Z-5.同。~転生者ストックとは~【ハイディ視点】

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~~~~さすがにぶっ通しではやらない。休憩を挟みつつ、24時間まではやった。


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「ん。要所が不確かだが、それもいつものことか。


 バカンスを楽しんで、待つとしよう。


 迎えが遅くなったら?」


「ちょっと借金でもして、金儲け始めるか」


「そうしよう。あとは……そもそも帰っても大丈夫か?というあたりか」



 おっとそれか。


 ストックが気にしてたやつ。


 さすがに地球にボクが現れたら、心配はどっかにいったみたいだが。



「それは……ボクらが神主のような、異分子とみなされるかも、ということか?」


「そうだ」



 この答えを出すのに必要だった要素は、二つ。



 まず一つは「この子が何者か」だ。


 もしも「竜胆」だったら、地球の人間ということになる。


 あちらに戻ったら、弾かれていただろう。



 だが、元々向こうの世界の人間なら?


「ストック。逆に考えたらどうだ」


「逆?」


「君、紫羅欄 竜胆は、そもそもあそこの精霊に送り込まれた存在で。


 最初から向こうの<ストック>だった、と」



 ストックが吹いた。



「そ、あり得るのか!?」


「君は、向こうに行く前に、精霊の声と思しきものを聞いている。


 元から何らかの繋がりがあったと、ボクは考えてるよ。


 そも精霊は、神に等しい高位の存在だぞ?


 そのくらい彼らなら、やりたい放題だろう」



 たぶんだが、その上で自重してる。


 どの辺にコミットした存在なのかは、ちょっと推し量り切れないけど。


 しかしそもそも、魂のベースが人間だからなぁ。



「いやだが……じゃあ私は何のために、またこっちに」


「改造ソフトのサーバー、どうした?」


「そりゃ落として消去したよ。あ」



 気づかれたご様子で何より。


 あれを動かしっぱなしは、ダメだろ。


 どうも神主三名は、あれのユーザーだったみたいだからな。



 そしてボクが、こっちに来なければ。


 ストックはずっと、それを稼働させていただろう。


 何か嫌気がさして、落とした可能性はないではないけど。



「そういうことだ。動いてたらまた、干渉の元だろう。


 そして、送り込んだ者が地球に残りっぱなしだと?」


「それも干渉の種になる……私は帰るまでが、役目ということか」



 で。ボクは、ストックを連れ帰るのが役目だから。


 ここにいるのも、帰るのも許される。


 まぁそもそも……そう。もう一つの方、だな。



 これがある以上、異分子なんてみなされることは、ない。



「あと君、言ってたろ。


 <王の指名した例外を除き、世界を渡らせるわけにはいかない>」


「ああ、言った」


「王。精霊の王とは、ボクだ」



 ストックがしばし固まって。



「は、はぁ!?」



 いいリアクションを返した。



「フィラの体を移したときのことを、覚えているか?」


「あ、あぁ。え、だからあんなに精霊が?」



 やっぱりピンと来てなかったかそうか。



「ちなみに、別の7柱にも礼をされている。


 神主らがパンドラに攻めて来た時、マドカたちの戦ってるところで」



 そういやアウローラを呼んだとき、ストックも見ているはずだが。


 この様子だと、あまり気にしていなかったな、こやつ。


 地球でもそうだったけど、ストックはすごーく優秀だけど、肝心なとこが抜けてる。



「え、じゃあ……」


「ボクが例外を決めるんだから、最初から大丈夫だった、ってことさ」



 ストックの力が抜け、膝から崩れ落ちた。



「教えてくれれば……いや、すまん。これは私が悪いのか」


「そうだ。いつも君は、一人で悩み過ぎたよ。


 とてもかわいい」


「ぐ」



 ストックが勝手に悩んで納得せず、相談してくれていれば。


 当然ボクは話したろうさ。



「…………おい、王よ。


 私はそもそも、何のために送り込まれた?」



 なにさその聞き方。


 まぁ気になるよなぁ。


 ここまで来たら、まとめてぶちまけるか。



「んー……そっから先は、何の根拠もない。ただの推論だ。


 そう決めたのはボクじゃない、過去の『ハイディ』だし」


「聞かせてもらおう」


「あのゲームさ、もうとっくに配信終わってたじゃないか」



 サービスは、とうに終了済み。


 だがストックがサーバーを立てたら、意外に人が来たんだよな。


 ほんとに人気だったのか?あれ。信じられん。



「ああ、そうだな?」


「で、クストの根は、リリース当時の配信中に、あちらの世界に入り込んできたと思われる。


 そして向こうの世界が撃退しようとしても、うまくいかなかった」


「我々はあっさり倒したが、魔導も通じず、人は触れたら消えるものな」



 ほんと、思い返すだに無敵の存在すぎる。


 精霊なら戦えるだろうが、魔導がダメな以上、相性はとても悪い。


 おまけに味方が調略されたり、暴れて封印したりで良い戦況ではなかったわけで。



 敗北もやむなし、だ。



「そう。だから、同じ力に頼ろうとしたんじゃないか?」


「同じ……つまりこちらとあちらを、もう一度つなげて。


 何か奴を打倒できるものを、呼び込もうとしたのか。


 それこそ私だったりするんじゃないか?」


「そういうヒロイックな思考はどうかと思うよ?


 ボクはたぶん……それで神器が強まったんじゃないかと思う」


「はぁ!?神器が、なぜ」



 ボクは彼女の問いに、思わずにやりとした。


 それに言及したのは、君が先だぞ?



「そりゃ『プレイヤー』がいるからさ。


 配信終了したサービスだったら、存在しなかった後ろ盾だ」


「いや、そりゃ確かにそうだが……」


「神器の発展は『比較的近い繰り返しに到達してから』だ。


 何か結びつかないかね?」


「私がサーバーを立てて以降、ということか……」


「そして発展の末、それは最終的にボクらのようなものを生み出した。


 時間的矛盾はありそうだが、そも精霊に時間概念がないからなぁ」



 つまり。過去のハイディはクストの根に負けた後。


 最初に、ストックという魂を地球に送り込んだ。



 ただ送るだけではなく、密かに使命を刷り込んだのかな?


 精霊は結構な強制力を持っているとは、いつかのスノーの言だ。



 そしてゲームサーバーを立てたストックは、予定通り神を呼び込み。


 その後押しがあちらの世界で、神器を発展させた。



 ふふ。誰あろう、その仕込みをしたのは、地球でのボクだ。


 課金アイテムで使い物にならなかった神器を、ストックに黙って仕込んだ。


 別にそう強いものではないんだが、いくつかの制限を撤廃し、普通に使えるものにしたんだ。



 仕込んだこと、ストックには知らせなかったけどね。


 この子は普通に「ないもの」と思い込んでいた。



 で。向こうで神器が発展し、ボクらが物語を覆し始め。


 最終的に、根を破壊した。



 神主っていう、余計なものの呼び込みもあったけど。


 それを含めての後始末もこれで終わり、というわけだ。

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