Zー3.同。~さぁ、旅に出よう。二人で~【ハイディ視点】

――――――――――――――――


~~~~ボクらの年?内緒だ。いい女に、そんなこと聞くなよ。


――――――――――――――――



「…………で。迎えはいつ来るんだ。ハイディ」



 迎え。あちらの世界からの、である。


 ボクら二人は、この地球からあの世界――クレードル半島へ、帰る。


 その迎えを呼び、ストックを連れて帰ることこそ、ボクがこっちに来た目的だ。



 地球で正体をばらした日から、ボクらは「目印」とするための、魔素の研究を始めた。


 向こうから地球の座標を、特定するためのものである。



 魔素自体は持ちだせたんだが、精霊は無理だった。


 なのである種の、培養をする必要があったんだ。


 魔素量が足りなくてね。今あるものから、研究開発するしかなかった。



 資金を得て、研究所と機材を得て、人員を用意して。


 ゴールがはっきりわかっているし、現物もボクの体にあった。


 おかげで、10年かからず到達できた。



 「迎え」のタイミングとしては、今からもうちょっと先になるはずだ。


 といっても、一か月も向こうではない。



「まだしばらくかかるって……言ったろう。


 だから、この後の予定を考えようって」


「言ったか?」


「ん……共有のタスクにも入ってる。


 ほら」



 携帯端末を見せる。


 ボクとストックで一緒に使っている、スケジュール管理表。



「…………」



 なぜそこで黙った。



「何をしでかしたストック。


 君に任せた、一緒に住んでるマンションの始末は、具体的にどうなった?」


「……今日引き払って来た」



 相変わらず君があほの子で、安心したよ。



 私物とかは、確かに少なくしてたけどさ。


 いずれ元の世界に帰るわけだしね。


 しかし今日引き払うとは、思い切った真似をしたな。



 さて、となると。



「キャッシュとクレジットは余裕あるな?」


「まぁ、それはだいぶ」


「身分証は?」


「常に」


「車とキー」


「ある。それは処分してない」


「携帯端末も、まだ大丈夫だな?」


「月末までは行ける」



 まだ月初だな。



「よろしい。


 では――――行き先は?」



 ストックがいい感じに、にやりとした。



「目的地なんて決めてられるか。


 好きに行こう、ハイディ」



 そうこなくっちゃ。



「じゃあ、食べたいものを決めて、それを求めていくか」


「ラーメンにしよう。ちょっと最近肌寒い」


「賛成だ。こちらの世界での未練をなくして……帰ろう。


 もう一度くらい、お母上の墓を拝んでいくか?あとご家族には」


「そうだな。墓参りはしておく。


 あの子たちにはもう言ってあるし、十分なものを残してきた。


 ハイディは?」


「お世話になったところには、手紙を出したよ。


 ちょっと長めに、旅に出る。連絡はとれないって」


「ぬかりないようで何よりだ」



 二人、誰もいない研究所で笑い合う。



「できれば、穏やかな旅にしたいね。


 いつも君と二人で出ると、トラブルばかりだ」


「私のせいじゃないぞ?」


「ボクのせいだよ、安心しろ。


 どうも、クレッセントにいるころからずっとそうなんだよ。


 あー……嫌かな?」



 特にストックと二人で出れば、厄を感じることばかりだった。


 ボクはいつも楽しかったけど。


 ストックがどうだったか、聞いたことがあまりない。



「いつも刺激的で最高だ。


 トラブルまみれで、ハイディは嫌じゃないかと……ちょっと気にしてはいたが」



 君もかよ。そりゃよかった。



「トラブルは嫌さそりゃ。


 君と穏やかに、イチャイチャしてたいもの。


 でも君とする何ものをも、ボクは得難いと思っている。


 幸せだ」



 およ、なんだねそのお顔はストック。


 何を疑っているのだね。



「洋画ばりに、犯罪者とカーチェイスすることになってもか?」


「あの程度、カーチェイスにもならんだろ。


 地球のクルマは跳べないから不便だけど、それだけだ」



 クルマで追い回したり追いかけられたりなんて、よくあることだ。


 お巡りさんや速度検知システムにだけ気をつければ、なんてことない。


 ドリフトやら片輪走行して、好きなだけひっかきまわせばいいだけだ。



 いっそ、どっかのスーパーカーみたいな改造車作るか?


 めっちゃジャンプできるやつ。ニトロ積んでもいいな。


 この国で走るのは、ちょっと難しいかもだが。



「高層ビルや孤立した環境で、テロリストと戦うことになってもか?」


「一方的な制圧を、戦いとは言わないんだよストック」



 ぶっちゃけ、人間はボクの相手にならない。


 だってボクの中には、それなりの魔素がある。


 すなわち、向こうと同じことができる。人は点けば皆倒れる。



 銃弾?ディックよりかはずいぶん遅いんだ。見てから掴める。


 口の中に銃口押し込まれて撃たれても、避けられるよ。



「毎度爆発に巻き込まれても?」


「荷電粒子砲級の攻撃を、至近で打ち込まれるのに比べたら。


 昼寝ができるほどセイフティーさ」



 さすがに核を落とされたら、ちと対処を考えねばならんが。


 あの程度の熱量と爆圧では、傷ついてはやれんなぁ。



 飛んでくる破片やらガラスやらを打ち落とすのは、ちょっと面倒だけど。



「たいがい、人間を辞めてるな……」


「君だって同じだろ、ストック。


 ボクは打ち込まれたミサイルを乗っ取って、乗って飛び出した君を見て。


 いろいろ深く考えるのを辞めたんだ」


「あんなもの、ただの曲芸じゃないか」



 ミサイルはきっちり安全圏で爆発させられた。


 ストックは焦げ跡一つなかった。



 人間辞めてるというより、もはや存在がギャグだ。


 一応、ストックにも魔素はあるけどさぁ。


 それにしたってやりすぎだ。意味わかんねぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る