Z-2.同。~転生者ハイディ・シルバは振り返る~【ハイディ視点】

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~~~~所長の君も素敵なんだけどね。やっぱりストックがいい。だいすき。


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 とても近い距離で、少し悪い顔をして、見つめ合う。



「セキュリティは切ってあんの?ストック」



 ストックが、にやりと笑う。



「引き渡しが済んだからな。


 退場してロックがかかるまでは、切ってもらった」



 そっと天井の隅につけられている、丸いカメラを見る。


 確かに、電源が入っていないようだが。



「何かするって言ってるようなものじゃないか、それは」


「何かするのか?」



 ストックは寝ぼけているのか??



「ここで何かするかボケェ。


 仮眠室のベッドだって、もうないんだからな」


「そこは情緒がないと思う」


「そういう問題じゃねぇ」


「冗談だ」



 わろてるし。


 そうしてひとしきり笑ってから。


 今度は、頬に――撫でるように、唇で触れて来た。



 手を、彼女の頬に添えて。


 顔の向きを、合わせて。


 落とされた唇を、そっと食む。



「…………こら。唇はだめだ」



 ……なんか妙に警戒されてない?


 あれかな。ファーストキスの刺激が強すぎたかな。


 以降すっかり、ストックはキス魔になってしまった。



 いや、するのはボクだから、キス魔はボクか?


 よくねだられるし、不意にするとこういうふうに、ダメ出しを食らう。



「なんでさ」


「くらくらする。布団はどこだ」


「落ち着けストック。


 今無いって言ったばかりだろう」



 このドムッツリさんめ。



「君はほんとそこ、我慢が効かなくなったね?」



 あんなに健気に耐えていたのに。



「しょうがないだろう!?


 こっちに戻って起きた瞬間に、ずっと一緒だった幼馴染が!


 『ようストック』って言ってきたんだぞ!


 私の情緒は滅茶苦茶だ!!一生直るもんか!!」



 ストックがご乱心召されている。



「そうは言うがな。


 こっちだって赤子からやり直して、君とずっと一緒に生きてきたんだぞ?


 でも正体ばらすといろいろ矛盾が生じるし、関係を結んだらややこしくもなるし。


 手も出さず、出させず、つかず離れずにずーっとそばにいて。


 君が向こうの世界に呼び出されて戻ってきて、ストックになるのを待ってたんだからな?


 そんなボクに免じて、できればそこはもうちょっと落ち着いてほしい」


「ぐぅぅぅぅ」



 めっちゃ悶えている。かわいい。



「…………あと、私を開発したお前が悪い」



 涙目でいうなしかわいいな。



「そこはお互い様だし、ネタ晴らし直後に押し倒してきた君に言う資格はない。


 あと昼間っから開発とか言うな自重しろ」


「ふぐぅぅぅぅ」



 だからなぜそんなにおかわいいになっていくのかねストック。


 それは新手のお誘いか?


 少し脳を落ち着け……せっかくなのでちょっと振り返ろうか。



 あの、別れの後。



 ボクは宿業の縁で、精霊に消されたストックをすぐに追った。


 クストの根の封印空間?に飛び込んだやつと一緒だ。


 すでにやったものだから、楽勝ってやつだな。それは成功した。



 ストックが気にしていた、世界渡りを認めない、精霊の警句。


 もちろん、そんなものないも同じだ。


 ボクが特例を指定する側、なんだからな。



 そこの確認がとれたのは、実によかった。


 おかげで安心して見送れたよ。



 だがストックを追って飛んだボクは、この地球で赤子になっていた。


 精霊は時間の概念がどうたらっていうのは、こういうことかと……妙に納得した。


 案の定で、予測済みというやつだ。精霊はダメだったが魔素は持ちだせて、記憶はしっかりあった。



 縁を辿って飛んだせいか、ストック自身は近くにいて――すぐわかったけど。


 同い年、近所の生まれで。



 児童養護施設で育つボクは、施設そばの幼稚園に入って。


 そこでストック――紫羅欄あらせいとう 竜胆りんどうと改めて出会った。


 別れ際、きちんと問い詰めてよかった。名前を聞いていたから、スムーズだったよ。



 そこからは、正体をばらさず、でもずっとストックの近くにいられるよう、追いかけた。


 とにかく孤児の身で、普通に暮らすストックに追随するのが大変だったなぁ。


 いくつかの幸運に恵まれて、こうして一緒にいられるわけだが。



 長年見守り、一緒の研究所職場に入って。



 その頃から、ストックはレトロクソゲーな『揺り籠から墓場まで』にはまった。


 そいつはとっくにサービスが終了しており、なぜか1~3のオフラインプレイ用データが残されていた。


 ストックはそこからわざわざサーバーを立て、シナリオを改造しつつ遊んでいた。



 ストックが遊んでいたのは、1だけだったけどね。残りは興味がなかったらしい。



 それで。


 なんかボクも付き合わされた。


 二人でげらげら笑いながら、クソゲー呼ばわりしつつ遊んだ。



 ただそれは最初だけで。


 サーバー運営が本格化するころには、ちょっと疎遠になってね。


 仕事が忙しかったのもあるんだけど……あれは避けられてたんだな。



 ちょっといろいろ焦らしすぎた。正直申し訳なかった。


 辛そうにしてたの、知ってたよ。


 ごめんね。



 そしてある日しばらくぶりに会った彼女が「何か変な声が聞こえる」とか、妙なことを言い始めて。


 ついに来たと、思った。



 それから数日後。彼女の音信が滞ったので、ダイナミックお宅訪問したら。


 ストックは、パソコンのゲーム画面の前で気を失ってて。


 介抱しつつ数時間見守ってたら、突然意識をとり戻した。



 もうちょっと寝てたら、病院に運んだが。思ったより短くてよかった。


 しかしこう、向こうに飛んだのは意識だけだったんだな。


 体が残っていたのは、意外だった。



 向こうじゃ体ごと消えたのにねぇ。


 ボクとも違うし。手段の問題かな?



 で、目覚めた紫羅欄 竜胆は、ストックになっていて。


 さっきの彼女のセリフのところに、繋がるわけだ。



 外見が変わったわけじゃ、ないんだけど。


 ボクを見るその目で――――すぐにわかったよ。



 くくく。


 悲しい別れをしたと思ったら、そいつが自分の幼馴染になってずっと一緒だった、か。


 確かに、頭がおかしくなりそうな状況だな。

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