7-4.同。~我ら王国民のソウルフードで乾杯を~

「あんまここで話すことじゃないけど……さては、呪いの子のことも知ってるね?」


「えっと、そういう子が知り合いにいます」


「で、勘だけど。ボクの父母とは学友か」



 ボクは父母の方には会ったことがないけど。


 たぶん、この人とは年が近い。



「あ。はい。私が後輩で。お世話になりまして。


 その……黙っておきますから」


「……ひょっとして、あそこのセキュリティ不安は常識なの?」


「そこまでではないですけど。


 ふふ……ハイディはお父様似ですね」



 どこを見てそういったし。不安しかねぇ。


 まぁでも、ボクより不安そうなやつに解説するのが先か。



 ミスティはたぶん、アムールさんとのやり取りでボクのことに気づいたな。


 ボクが先に挨拶して、アムールさんがそれに丁寧な礼で答えた。


 侯爵家の執事頭が礼を尽くすんだから、それなりの相手だと想像はつく。



 その上で……浚われた事情とか、もしかしたら聞いているだろう。


 学友だということだし、家の関係で親しかったりもしたんじゃないかな。



 コンクパールは、パール伯爵家からのさらに分家が起源だが、今は東方領のパーズ大公筋だったはず。


 爵位は公爵だ。国内唯一の公爵位で、さらに領地を持っていない珍しい大貴族。


 比較的近代で王家の血筋を迎えて公爵になったとこだから、王家にはかなり近い方だ。



 なお領がないのは、代わりにコンクパール山脈の命名権を所望したからだと言われている。


 普通公爵つったら地方領主のことだろ?って思うんだけど。王国はその辺、変わってるなぁ。



「ストック。この人は、前の時間でボクの友達だった人の一人だ。


 信じられないくらいの名探偵だよ。


 ボクのことは……簡単な推理で理解したと見ていい。


 そして底抜けのお人よしで、重度のスリル中毒。


 魂の芯からコンクパールの冒険家だ。


 陰謀は絶対許せない人だから、安心していいよ」


「…………そうか」


「まって。そんな評価なんですか私」


「とても取り繕って控えめに言った」


「うそぉ!?」



 二人とも、少しは肩の力が抜けたようだ。



 ……そんな信頼していた人がボクを殺しに来たから、だいぶしんどかったんだけどね。



 でも改めて話して思う。


 この人、だまされるのはあり得るが、人の話を聞かないのはあり得ない。


 確信する。きっとあのコンクパールのときは、何かあったんだ。



 ここでミスティに会えてよかった。


 未来がまた破滅に向かわないように、備えよう。



 見えているもの以外に、まだ何かある。



「さて、注文にしようか。すみません!」



 手を挙げて呼ぶと、すぐ給仕の人がやってきた。


 ストックと顔を見合わせる。



「「マッシュ、大盛で」」


「ええええ!?あれ、食べきれるんですか?」



 王国でマッシュと言えば、茹でて潰した黄土根芋と若大豆を、塩コショウベースに味付けてひたすら積み上げたものだ。


 王国民のソウルフードで、雑な味加減のものを出すと、戦争になる。


 店ごとにこだわりがあったりもするが……まぁ流行っててこれがまずい飲食店はない。



 なお、一口に「大盛」と言えば、5-6人前は余裕で出てくる。



「王国民なら普通では?あ、ボクとこの子に一つずつで」


「そうだな。で、飲み物は」


「「エールレッドを、大ジョッキで」」


「ええええええええ!!??あの辛いの飲むんですか????」


「それがたまらないんじゃないですか」


「ほんとはエールファイアがいいが、子どもでは飲めんしな」


「えぇ~……。あ、私は揚げとエールで」



 ミスティがドン引きしている。この人、甘党だからな。



 なお、レッドは麦酒のアルコールを飛ばし、はじかみと椒を利かせて、赤実を混ぜたカクテル。


 ファイアは同じベースで、酒精お強めのやつ。


 エールレッドは子どもでも飲める。普通飲まないけど。ファイアは成人してからのお飲み物です。



 エールファイアを、学園で昼間っから飲むのが最高だったんだよね。


 なおボクの隣のお嬢様は、カフェテリアで昼間っから酒飲んでるボクを注意しに来て、結局一緒に飲んだ。


 マッシュが足りねぇって、おかわりし合いながらめっちゃ食べて飲んだのが、いい思い出だ。



 ちょっと待つと、ジョッキが三つ、大皿が二つ来た。


 揚げ芋は少々時間がかかるんだよね。



 ボクとストックがジョッキを掲げる。


 ミスティも合わせてきた。



「えっと、何に?」


「「良い冒険と出会いに」」



 ミスティがふっと笑った。



「良い冒険と出会いに」


「「「乾杯!」」」



 ジョッキを重ねる音が、軽やかに響いた。

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