7-3.同。~洞穴より街へ戻る。祝杯をあげよう~
ミスティを連れて、モンストンの街のギルドに戻って。
ちょっと大変だった。
受付嬢のカロナさんは倒れそうになるし、他の冒険者たちにミスティはもみくちゃにされてたし。
ボクらも肩を叩かれたり頭を叩かれたり撫でられたりした。
お前ら、ボクの隣の子は侯爵令嬢だぞ?大丈夫か?
ひとしきり大騒ぎになった後、依頼達成証明ということでストックがタグを読みとってもらって。
ボクのブロンズタグも発行されて。
そうして、豚の買取をお願いするために、駐車場に降りてきたわけだが。
「買い取れないって、どういうことですか、カロナさん!?」
査定は出すが、買取は待ってほしいと言われ、なぜかミスティが食って掛かった。
「お、落ち着いてミスティさん。そういうわけじゃ……」
「ミスティさん、ここだと銀貨が足りないんですよ。
そうでしょ?カロナさん」
「あ、はい。魔物は買い取り相場の桁が上がりますが。
その準備金は、冒険者ギルドにはありません。
満額即時にご用意できないのです」
そういうこと。だからちょっと時間かかるんだよね。
とはいえ、いつの間にか消えてるストックがいるからね……一晩で済むんじゃないかな?
「じゃあどうするんです!?」
「ストックが実家に向かったみたいですから、すぐ済みますよ」
「へ?ストックさんの実家って……」
「魔物の取り扱いは貴族がするものでしょう。
領主ともなれば、領の銀行も兼ねますから、十分な銀貨を所蔵しているはずです」
「……………………貴族ってまさか」
「あの子の本名はリィンジア・ロイドですよ」
「モンストン侯爵令嬢!?こんなとこで何してるんですか!!」
君が言うなしコンクパール公爵令嬢。
まぁミスティは成人だから、いいのかもしれんが。
「最接近領を預かる大貴族の娘だから、これも教育のうちなんでしょう。
おや、もう戻ってきた」
ストックが、人を連れて戻ってきた。
ミスティがあわあわしながら固まっている。
「お帰りなさいませ。リィンジア様」
「家内の人間にくらい、話は通してるよハイディ。
こちらは当家の執事頭のアムールだ。
アムール、彼女がウィスタリア。私はハイディと呼んでる」
紹介された執事頭さんは、スレンダーな女性……に見える。
ちょっと中性的な印象だ。
というか、ヴァイオレット様にかなり似てるな?
「ウィスタリアと申します」
先に礼をとる。
こいつが話を通したという以上、ボクの事情は知ってる系の人だろう。
「これはご丁寧に。アムールと申します。ウィスタリア様」
アムールさんが胸に手を当てて一礼した。
ハスキーボイスっていうんだろうか。低くてきれいな声だ。
「アムールさん、早速ですが」
「ポーク二頭とは豪勢ですね。では一緒に検めましょうか」
「はい」
カロナさんとアムールさんが相談にかかった。
評価して金額出して、決裁して銀貨を出してくるわけだが……まぁしばらくかかるだろうな。
待ってるのも難だしと思ってストックを見たら、彼女もこちらを見ていて、頷いた。
「アムール、後は任せる。私たちは上に行ってるよ」
「はい、お任せを。リィンジア様。
明朝にはご用意いたします」
アムールさんの丁寧な礼に見送られて、ボクらは駐車場から表に出た。
ボク、ストック、ミスティと三人で階段を上がる。
「ストック、いきなり執事頭連れてくるもんなの?こういうの」
「決済の問題だからな。他の人間じゃ権限がなくて、話が進まん」
「あー、そうか。王国の領銀行決済は、領主、領主代行までだったか」
「そうだ」
なお領主代行は、領主貴族家の執事(頭)と、代官を務める分家貴族が該当する。
親族に代行させたい場合、いずれかの街の代官に任命しておくんだったかな。
扉を開けて二階のホールに入ると、ずいぶんな活気だった。
夜だし、酒入ってるんだろうな。
幾人か、こちらに向かってエールの入ったジョッキを掲げている。
さっき人の頭叩きやがった奴らだな。適当に手を振っておく。
カウンター側の左奥のテーブルが空いているようなので、そちらに行った。
椅子に座って……おや?ミスティが座らずに固まって、ボクを見てる。
「どしたんです?」
「…………ちょっと恐れ多いかな、と」
……もう気づかれた。
腰を浮かせ掛かるストックを、手で制する。
それから、空いてる椅子を手で示した。
「まぁ座ってよ。ああ、せっかくだから君のことはミスティって呼ぶね?
ボクのことも、ハイディと呼んで」
「ん!…………ハイディさ……ハイディ」
やっと座った。
まず話して、緊張を解くのが先かな。
注文はそれからでいいか。
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