7-2.同。~彼女の大切なもの~
「ファイアで侍従として雇われたので、そちらに。
ボクは縁あって、ドーンにこの子と行くことになったんです」
「おお、聖域ドーンですか!もしかして神職になるんですか?」
4-5歳の子がわざわざ聖域行くっていったら、まぁそう思うよね。
「みたいです。この子……ストックのついでですが」
「ストック、さんは神職の家系で?」
「貴族ですよ」
「ええええ!?え、じゃあ、あれ?」
おお。これだけで察しがついたようだな。
貴族は普通、神職にならない。
なるなら特別な事情がある場合。
魔力なし、とか。
「家が継げないそうなので、そういう運びになったそうです」
「ははー……。それは大変、ですね」
「小さくても王国貴族令嬢なので、そうでもなさそうです。
今休んでるのは、後ろの一体を焼いたからですよ」
「え、このお年で武術家……?」
ほんとこの人、頭がよく回るよな。
魔力なしであることを踏まえれば、魔物を倒すなら武術か神器。
神器を積んでる様子はないから、武術家と断定したと。
「ボクもですよ。端くれですが」
「おおおお……波乱万丈ですね」
「ミスティ様のご家系ほどでは」
コンクパールの家の人は、瞳の色が特徴的だ。
あまり他では見ない。
「ああ、ご存知ですか……。私はミソッカスでして。様付けは結構です。
学園を出ましたが、魔導も半端で、家を継げる見込みがありません」
…………神器と魔導、それも魔法も魔術も魔道具も使いこなす、大層な方でしたが。
家を継げないのは確か、精霊への適性が低かったんだっけ?魔力はたくさんあるけど。
というか、貴族のこの人に、下手な口の利き方するのはそうは言ってもあまりよくないんやけど。
どうしたもんかなこれは。
「神器車運転できるんだから、生きていくには困らないのでは?」
「そうなんですが……コンクパールの血筋でしょうか。
ちょっとは冒険したいんですが、うまくいきませんで。
今回も、間引き収入でそろそろ車両を新しくして、次へと思ってた矢先に、こんな」
ふふ。ほんと変わらないなぁ。ちょっとにやけてしまう。
会ったばかりの幼児に、何自分の身の上ぶちまけてるのさ。
こういうところが、とても信頼できるんだけど。
秘密主義のクレッセントの中では、癒しのような人だった。
機密は守る。でも、きちんと腹の中を打ち明けることができる。
ボクが見習っているところでもある。
心の内は、相手を傷つけない限り、きちんと曝け出した方がいい。
…………自分でもよくわからんものについては、保留だ保留。
ストックにその、なんでこう、いいのかとか聞かれても、答えられんし。
「スロウポーク二匹に追われて、車両も壊れたのに生きてるんですから、大冒険では?」
「おお。ほんとですね!」
バックミラーの向こうで、彼女の顔が明るくなった。
ミスティは探検家じゃなくて冒険家なので、こういう九死に一生みたいなのが好きなのだ。
……かなりのスリルジャンキーである。一緒に行動するなら、結構覚悟がいる。
ボクは嫌いじゃなかった。
一緒に旅をするならストックだけど、この人ともきっと楽しめただろう。
……ボクはトラブルを引き寄せる性質なので、とんでもないことになるだろうけど。
お、進行方向に光るものが見えた。
「それに……あれがあれば、下取りに出して新しく買うにしろ、修理するにしろ。
次を諦めないで済むんじゃないですかね」
「あ、核結晶!?」
「悪運の強い方ですね……ドア開けて拾ってください」
クルマをそばに寄せる。
ミスティがドアを開け、落ちてる結晶を拾ってすぐ戻った。
大事そうに胸元に抱えている。
結晶は緑じゃない。珍しいな。
黄色、というか黄金?の結晶かな?
…………まさか、ボクのと同じようなアレじゃなかろうな。
「最初に出会った子なんです。ずっと大事にしてて……」
そういう話か。だから探したかったんだな。
……いや、良い話だけど、正直引くわ。車体破壊されたの、今回が初めてじゃないんかよ。
…………まって。クレッセントで会った時も、同じ話聞いたけど。
10年後までずっと使ってるの?その結晶。
「車体が何度も壊れて、核とあなたはこれまで無事って、ほんとにすごいですね……」
「たぶん、いつも守ってもらってるんです。
――私も、しっかりしないと」
いい顔だ。
機転も利くし、へこたれないし、悪運強いし、ほんと冒険家向きだなこの人。
正直……その色付き結晶は気になるけど。
こう、言い回しもとても気になるんだけど。
聞くのは野暮ってものだな。
「では、日が暮れてしまいますので、戻りますね。
少し休んでいてください」
「ありがとう、ハイディさん」
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