7.領都モンストン、冒険者ギルドにて。再会を祝す。

 しばらく探して、生存者は無事見つけた。



 岩陰に蹲っていたので、近くにクルマを止めて声をかけた。


 挨拶して、少し事情――やはり神器車を豚に破壊されたらしい――を聞いて。


 こちらのクルマを見せたら。



「ふおおおおおおおおおおおお!なんですこのセンスのいい配色は!


 ラインがかなり古いやつですけど、味がありますね!


 こんなの見たことありませんよ!!」



 うるさい。


 元気なのは何よりだが。


 ……この人は変わらねぇな。



「伝説のサンライトビリオンを思わせるので、そう呼んでます」


「あ!の!確かに赤いフレームカラーは、あのクルマを髣髴とさせますね!!」



 大興奮だけど、ストックが助手席で寝てるから、抑えめにしてほしいなぁ。


 ストックはあの紫陽蛇獣……呪縛を用いた武術「呪法」を使ってダウン済み。


 魔素を激しく消耗するから、ボクら四歳の体だと持たないんだよね。



 だから「一対一なら、魔物も倒せる」だったのか。


 そりゃ一匹倒してこうなったら、引き上げるしかないよね。



「とりあえず後ろ乗ってください。おひとりで来てたんで合ってますよね?」


「ええ、ええ。スロウポークがいきなり二体も出て、どうにもなら……ふぉ!?二体ともここにおる!!」



 その人は、ミスティと名乗った。フルネームはミスティ・コンクパールのはずだ。


 ……山脈の名前にもなってるその家名は、王国貴族のそれだ。


 登山を始め、アウトドア活動で数々の偉業を残している、異色の家系だったはず。



 彼女自身は、ふわっとしたボリューミーな青紫の髪と、桃色の瞳が特徴的な、20歳前後の女性だ。


 背はあんまり高くない……というか全体に小柄な感じ。


 相変わらず髪はほんと長くて多いな。かなり編んでまとめてるけど。


 

 彼女が恐る恐る後部座席に乗り込んだので、ボクも運転席に戻った。



 そっか。こんなとこで働いてたんだ、ミスティ。


 ボクの友達の中で、一番年上の、とても元気な人。



 あのときは一か八かで袈裟に斬って勝てたけど……。


 悪運の強すぎるこの人に、運で勝てる日が来るとは、思ってもみなかった。



「あのー……できれば私のクルマの核を回収したいのですが」


「いいですよ。確認はしに行きましょうか。このまま左回りで行きますよ?」


「はい、お願いします」



 アクセルを緩く踏み、左回りルートでダンジョンを進む。



「スロウポークは核をきっちり狙ってくるので、期待はなさらず」


「ううううう……」



 車体より核が高いからね、神器車は。回収したい気持ちはわかる。


 でも。



「何年くらいここの間引きやってるんです?ミスティさん」


「丸二年です。今まで豚が出たことはないんですけど」


「三年に一度は見ることがあると言いますからね」



 王国の車両間引き依頼相場なら、そんだけやってりゃ廃業はなかろ。


 かなり稼げるから、車両くらい二・三台は買えるはずだ。


 でもそういや、以前も金欠でよくピーピー言ってたなぁ。



 なお、スローポークは理由は不明だが、ダンジョン浅層に現れる魔物だ。


 群れや眷属を作る様子もないんだが、気づくと居着いているのだという。


 奴は他の魔物や眷属を殺し、人間も殺し、神器は念入りに潰してくる。



 魔物同士は普通縄張り争いくらいで、殺し合いなんてしないんだけど、こいつは別だ。



「ハイディ、さんは。ずいぶん慣れてらっしゃいますね?運転。


 冒険者業のことも、お詳しいようですし……」



 職業柄というか性格というか、ミスティはよく気が付く。


 そりゃ、こんなちっこいの二人だけでダンジョン来てたら気になるよな。


 明らかにボクの運転や話す内容は、四歳児離れしてるし。



 正直に全部話すわけにはいかないけど……さて。


 うーん、この人なら悪意はない。頭も回るから、情報をばらまいたりもしないだろう。


 ほのめかす程度に話していくか。



 それはともかくこの人、貴族なのに砕けっぷりがすごいな?


 前もそうだったけど、もちょっと淑やかにしようよ。


 黙ってれば上品な人なんだけどね。



「母親代わりの武人に仕込まれまして」


「はぁ。貴族ですか?」


「いえ。でも学園に通ってたことがあるらしいです」


「ほほー……えっと、今はどちらに」



 んむ。保護者の行方は気になるか。

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