6-6.同。~怪異を討つは、呪いの力~
魔力の溜まりを感じ、アクセルを離してギアをシフト。
サンライトビリオンが急加速し、横向きに壁に直行する。
「ちょ、ハイディ!?」
「しっかり掴まってろストック!!」
扉側の操作盤をいじって、ちょっとベルトを増やしてやる。胴体部はこれで揺れないはずだ。
自分の分も増やして、さらにアクセルを踏み込む。
壁に当たる直前……シフトレバーを細やかに操作し、ギアをタイミングを見つつ何度も切り替える。
車体が、壁を登る。
やや斜めに進んでいく。
このまま天井を経由してループするのと同時に、挟まれた状況から抜け出す!
「ななな!」
「舌噛むから黙ってろ!上まで行くぞ!!」
壁から天井まで駆ける。
クルマの天井――地面側を見ると、奴らが腕を振り下ろしているところだった。
アクセルをベタ踏みし、ギアを切り替えて、もう一方の壁へ直進する。
二本の腕が地面を叩くと、洞窟全体が大きく揺れた。
あの地面を叩く奴、同じ面で受けると神器車はひっくり返る。
そこを、直接叩かれて破壊されるんだよな。
でも壁や天井にいれば、逃れることができる。ベストは天井だ。
大地を叩くときに天井にいないといけないので、タイミングが難しい。
「っ!」
偉い子め。ストックが黙って耐えている。
少し浮いたが、無事に最初に登ったのと反対の壁までぐるっと回ってきた。
そのまま、やっと地面へ。いったん速度を緩める。
二匹とも、背後だ。
…………よし、三匹目は見えないな。
一度打ち下ろした後は、大きく隙ができ、しばらく動かなくなる。
ギアを切り替え、バック。思いっきり一体に当たり、吹っ飛ばす。
もう一体も巻き込まれ、転倒した。
さらに向きを変えて、正面から突っ込み、一体の頭の丸太を目指す。
二体折り重なっているから、上側のやつならぎりぎり車体の下部が当たってくれるはずだ。
衝突寸前でギアを切り替え、ハンドルを思いっきり左にきって、車体全体を回す。
ブレーキを踏み、走行用魔力流を消して、車体を少し下げて――ぶつけた。
大きな音がして、丸太の一本が跳ね上がり……飛んでいく。
あわよくばと思ったが、二本とも飛ばすのは難しかったか。
クルマは回りながら、二体の上を通過していく。
ギアを細かく切り替えつつ、車体の回転が止まったところで、急いで離脱。
距離をとって、止まる。
「さて。実はこっからかなり綱渡りなんだよね。
どうしようかストック」
腕の振りおろしを何とか避けつつ、隙を見て頭の丸太に当たらないといけない。
頭は斜め上向いてることが多いから、正面から行っても意外に当たらないんだよね。
楽なのは天井まで登ってって落ちてくるのだけど、これで倒せるかどうかは五分だ。
神器車は横転までは自力復旧できるが、ひっくり返ったらさすがにどうにもならない。
この方法は、ちょっと分が悪い賭けになる。
「……任せろ。ベルトを解いてくれ、ハイディ」
正面の起き上がろうとする豚を睨みつつ、ストックが言う。
ボクが素直にベルトを解くと……ストックが深く、息をした。
息が音に、音が声に、声が咆哮に、咆哮が轟音になって響く。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
これ、まさか。
……彼女の赤い瞳が、さらに赤く燃え上がっている。
――――立て、紫陽蛇獣。
何かジジジっという音がする。それにちょっと熱い、ような。
間違いない、呪法だ。呪われた武術。
ヴァイオレット様に習ったの、それかよ……。
ボクも人のこと言えないけど、よくやるな。
「行ってくる」
ストックが艶やかに舌なめずりをし……クルマを降りて行った。
そして降りてすぐ、地面すれすれを滑空するように駆けていく。
まるで――蛇が這うように。
躯をのけて起き上がったもう一体が、こちらも向かずに無造作に左腕の丸太を振る。
彼女はそれに、正面から左の掌底を打ち付けて――砕いた。
豚の鳴き声が醜く響く。
その隙にストックは回り込み、豚の脚に右の掌を押し当てた。
――――必殺。極震発勁。
地面が鳴る。
ジュっという音がして、魔物が燃えた。
一瞬薄く炎が上がり、ほどよく焦げて、倒れる。
窓を開けると……なんとも言えないにおいがした。
何だろう、熱を急速に加えた感じか?
一部の可燃物……体表の油等が、その急加熱でちょっと燃えたのかもしれない。
「ストック」
「……二体とも死んでる。大丈夫だ」
「ん。持てる?できれば後ろに積んじゃおう。
買い取ってもらうと、結構な値がつく」
「わかった。開けておいてくれ」
車体背面のドアを開ける。三列目のシートは畳んであり、そこがトランクルーム代わりだ。
我々は四歳児の体だが、魔素の制御能力が十分なら、あれくらい小型の魔物なら持てる。
ほどなくストックは二体の躯を積みこんで、助手席に戻ってきた。
「……臭いが染みつきそうだな」
「大丈夫。脱臭機構もついてるもんなんだよ。必須だからね」
「そうか。あとは生存者だな」
「ん。このまま行こう。それと……ストック」
「なんだ」
左拳を差し出す。
「先を越されてるとは思わなかった。かっこよかったよ」
「ハイディも、素晴らしい技術だった」
彼女が右拳を軽く打ち付けた。
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