6-5.同。~魔からも外れし、怪異に挑む~

 領兵に事情を話して――前の車両間引きの人が、まだ戻ってないことを聞いて。


 鉄扉を開けてもらい、クルマに乗ったのまま中へ。


 洞窟は浅く、入ってすぐにダンジョンの門があり……そこを潜り抜けた。



 内部は、質感は違うが先の天然洞窟の続きのようでもある。


 神器車が余裕をもってすれ違える程度には広さがあり、天井も高い。


 暗いんだろうけど……神器車の「窓」は魔導で外部を映し出しているものなので、周囲の暗さは関係ない。



 外に出たときは、真っ暗だから気をつけないといけないけどね。



 そのまま、荒れた地面を滑らせていく。



「…………間引きはされているようだな」


「そうだね。僅かだけど、眷属の残骸がある」



 血痕とか、肉片が見える。


 血はともかく、肉はあまり時間が経ったら残っていないはずだ。


 そして一部しか残ってないので、これは眷属のもの。人ではないな。



 眷属が神器車で轢かれ、体の大部分を魔力流に消されたんだろう。



 このダンジョンは入り組んでいるというほどではないが、分かれ道はあるようだ。


 差し掛かったら、左に曲がる。



「こっちでいいのか?」


「神器車での間引きの常識は、左回り。


 これで先行を追いかけるのが、一番近道だ」


「なるほど」



 もう一度左折。


 やみくもに回っても、生存者や魔物、手がかりを見つけるのは難しい。


 だが、こちらで正解のようだ。やはり、眷属の残骸がちらほら見える。



 このまま行こう。



「ストック、スロウポークとの戦闘経験は?」


「ある。いや、すぐ首を刎ねて終いだから、戦闘とは言えんが。


 ハイディはあるんだな?」


「神器車でのダンジョン間引き依頼中に、4回ほど。


 一番多かったときは、三匹に囲まれた」


「神器の魔力流が効かないのに、どうやったんだ?」


「ストックはどうやって倒したのさ」


「神器でそのまま叩き斬った」


「こっちもだよ。ほどよく車体で体当たりしてひき潰す。


 まぁ一体ずつだけどね。おっと」



 …………いた。前方に一体。まだ後ろを向いている。



 スロウポークは、二本足で立つ何かだ。背丈は2mくらい。



 肘から下と、頭が、丸太か何かのようなものになっている。


 豚の名がついているが、太いわけではない。どちらかというと、細く高く、不気味だ。


 豚なのは、鳴き声だ。どこから声出てるかわかんないけど。



 珍しい、人型の魔物。そして、魔力流が効かない。


 流れを越えてくる。



 ただ非常にのろく、強くはない。


 強度も、あの丸太以外は大したことはない。


 首は細く、ここを斬られると再生もせずに死ぬ。



 なお神器車でどうにかする場合は、頭の丸太に当たりに行く。


 そうすると、首がもげて死ぬ。


 魔力流が効かないのと、膂力が大きいことが脅威だが、わかっていればそう強くはない。



 アクセルを踏みこもうとしたら……ストックが声を上げた。



「おい、ハイディ。


 ……後ろにもいるぞ」


「は?」



 分かれ道やないぞここ、どっから現れた??


 見上げてミラーを確認すると、確かに後ろにも一体いる。仄かに、赤いような……。



 まずい。前のが振り向いた。しかも、両方が右腕を掲げ始めている。


 いつの間に戦闘態勢に入った!?



 ――――まずいと思ったら、不敵に笑え、ハイディ。



 かつてボクに運転のいろはを教えてくれた人の言葉が、蘇る。


 恐るべき技術を持ち、かっこつけることに執念を燃やす人だった。


 その方がかっこいいと思ったら、不可能だって捻じ曲げる。



 ボクもだいぶ影響を受けている。


 クルマをサンライトビリオンと名付けたのも、その人の真似だし。


 今、思わず口の端が吊り上がってるのも、そのせいだろう。



 無意識にハンドルを握り直す。


 シフトレバーを操作、ディレクションギアをニュートラルに切り替えて、アクセル。


 ボクの愛車が、気炎を上げる。



 あの少年のような大人の口癖が、勝手に口をついて出た。



「――――いくぞサンライトビリオン、閃光のように!!」

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