6-4.同。~いざ、小さな異界……ダンジョンへ~

 クルマで西門から出て、依頼書にあるダンジョンへ向かう。


 急ぐので、街道からは少しそれた平地を爆走中だ。



「今更だけどさ」


「なんだハイディ」



 ちらりと助手席のストックを見る。



 長旅だし、途中人に会うわけでもないので、彼女は今、平民の着るような綿ベースの上下を着てる。


 外は暑いけど、今は麻の上着を羽織ってる。


 染色は適当で、全体がベージュ地。上着は青いけど。



 あと、胸元に大きめの青いブローチもしてる。前の時も、いつも身に着けていたな。


 こんな小さい頃から持ってたのか。



 ボクも、いつからかずっと持ってる、赤い石のついたロザリオを首から下げてる。


 これ、由来わかんないんだよね。誰からもらったかも。


 王国じゃなかろうし、聖国でもないっぽいんだよなぁ。はて。



「いや、この恰好でダンジョンかなって。動きやすい服は持ってきてない」


「そうだったな。今度見繕うか」


「地味なのにしたんだから、派手な恰好するなよ?」



 なぜかこやつは貴族令嬢なのに供も連れてないので、あんまり身分がばればれな恰好はよろしくない。


 少なくともこの旅程の間は、平民のフリをしておいたほうが良かろう。


 ……あるいはこれ、ボクが供ってことか?



 なお、神器車は平民の乗り物という認識なので、これに乗ってること自体は問題ない。


 何せ動かすのに魔結晶がいるからね。神器使いより普通は出力が大きいのがいるから、魔導師はあまり乗らない。


 そして貴族=魔導師だ。もちろん、平民が運転して、貴族を乗せているということ自体はあるのはあるんだけど。



 でもたいがい馬車だよなぁ。神器車で送迎される貴族の話は、あまり聞いたことがない。


 そういう文化かしら。



「派手なのとは?」


「前は真っ赤なの着てたじゃないか。コンクパールで。


 ああいうのが趣味なんじゃないの?」



 あの山の時以外は……そういやあまり他の恰好を見ていないな。


 ラリーアラウンドのストック、と戦ったときは、なんか黒のスーツだったし。


 帝国の流行りじゃねぇなあれ。連邦かぶれか。



 こっちで再会して以降だと、紫のドレスが多いかな?



「……お前に会いに行くから引っ張り出した、一張羅だよ。


 あの時は服なんて、高いのはだいたい処分済みだったからな」


「なんだそうだったのか」


「ああ。赤い結晶のハイディに会いに行くなら、これだと思ってとっておいた」


「…………今は赤じゃないんだな?」


「ん?これか?その髪に合わせてるんだよ」



 ボクの髪は暗い紫色。


 彼女の上着も、確かに青というには濃くて暗い色だ。



「…………こう、独占欲的な主張か何かか?」


「そういうファッションさ。お相手の色を入れるんだよ。


 だからほら、赤いリボンを贈ったろう?」



 んぐ。これそういうことかよ。


 リボンをもらったので、髪は括るほど長くはないけど、せっかくなのでつけてる。


 ストックは銀髪だから、これは目の色ってことか。



「…………やたら白い服を用意したのも」



 ボクが着てるのはベージュというより、ホワイト。


 白いから汚れ目立ちそうなんだけど、何着もおろしたてを用意された。



「そういうことだ。お前は瞳も髪も深い色合いだから、明るい色が良く似合う」



 やられた。ファイアを出るとき、準備を任せるんじゃなかった。


 顔から火が出そうだ。


 すごいによによしやがって。こっちみんなし。



「このくすんで暗いのを、深いと表現されたのは初めてだね」


「落ち着いたいい色だよ。ずっと見ていたくなる」


「だからいつもじっと見てるのか、君」


「そうだよ」


「そっか。……見えてきた。あそこだ」



 街道からは見える範疇で、その点は助かった。


 別の意味でも助かった。早く顔の熱よ引いてくれ。



 小高い山の一面が切り立った崖になっている。


 その足下に鉄扉、扉の脇には領兵が立っている。


 近くには詰め所のような建屋も。



 鉄扉の左右の柱には奇妙な紙が貼られており――間違いない。ダンジョンがあの奥にある。


 あの紙、お札と言えばいいんだろうかね。そういやこれも忘れるところだったな……。


 今はいいけど、そのうち調べないと。



 ダンジョンは異空間。その入り口の門は、まだらな暗い空間で、どこにできるかはわからない。


 存在が確認されると、国や領が管理に乗り出す。周囲を建屋で覆い、人を配置する。


 今回は割と街からは離れたところで……どうも、天然洞窟の奥にあるようだな。



 息を深く、する。



 ストックも、少し緊張した面持ちだ。


 魔物なんてお互い慣れたもんだが、人命が関わるなら話は別。


 この状況には早々、慣れるものではない。



「手早く片付けてしまおう」


「そうだね。ねぇストック」


「なんだ、ハイディ」


「今回の稼ぎで、ストックにも赤いリボンを贈ってあげるよ」


「楽しみにしておこう」



 アクセルを緩く踏み、サンライトビリオンを入り口に近づけた。

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