第17話 断絶

2038年8月2日 11時12分頃 とある媒体に録音された人間たちの会話にて:


「ウェルツが、我が国との国交を断つと宣言した」

「それは残念だな。経済面での協力を推し進めようという話もあったのだが」

「一方的に断交を言い渡してきたんだから仕方ないさ、それよりも」

「対抗措置について考えなくてはならないか……」

「外交官の召還と、ウェルツ政府の資産凍結で十分では?」

「いや、輸出制限もかけよう」

「やめた方がいい。生産者へのダメージが大きすぎる」

「国庫予算から損失分を保障すればいい。そのための金が有るはずだ」

「確かにあるな。だが、本当にそれでいいのか?」

「問題ない。水面下での外交努力はすべてやったんだ。直に分かる」

「なるほどな。あとは、あの人の許可を得ればいい……」



2038年8月2日 14時48分頃 とある人間同士の音声通話にて:


「ウェルツと、サリージャが国交を断絶した。ゼロ・トリガー対策はどうなる?」

「特に、何事もなかったかのように進行するさ」

「国際的な観点から分析しても、特に影響はないとでも?」

「ないね。ゼロ・トリガー対策とは、いわゆる軍事強化そのもの。対立が深まったままの方が、各国の緊張感が増すから都合がいい」

「でも、戦争はしてほしくないんだろ?」

「当たり前だ。でも、軍事強化が、ゼロ・トリガーへの対抗手段だと思っていない国が他にもあるとしたら、その時は、本来の意味での戦争が起こる」



2038年8月5日 16時17分頃 とある人間の演説映像にて:


「サリージャは、ウェルツからの断交通告を受け、ウェルツの外交官を全員、強制帰国させるという手段を講じました。なお、ウェルツ政府およびウェルツ人の資産は、我が国の方針により凍結が進んでいます。ウェルツが自らの過ちを認めなければ、彼らにとって、さらに良くない事が起こるに違いありません」



2038年8月9日 07時32分頃 とあるメディアのニュースにて:


「サリージャが、一部の品目について、当面の間、輸出を停止すると発表いたしました。特に、天然資源においては、世界有数の輸出国であることから、国際価格の決定に大きな影響が出るのではないかという懸念の声が出ています」

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