第5話 対策会議

2037年9月30日 10時12分頃 とある媒体に録音された人間たちの会話にて:


「少し前に、ある配信者の死体が発見されたそうですね」

「そして昨日、ある政治家が、無残な姿で死んでいるのが見つかったと……」

「その政治家も、ゼロ・トリガーの証拠集めの途中で殺されたのか?」

「分からないが、その可能性は高いだろ」

「かと言って、何も対策しないわけにはいかない。国民の命だけじゃなく、国家存亡もかかっているからな」

「敵国だけ、パパーンと滅びてくれたら嬉しいんですけどねえ」

「そうじゃないから、形だけでも結論を出さないと怒られるでしょう?」

「いやいや、形だけじゃだめですよ」

「その通りだよ。政府中枢向けの説明と、国民向けの説明をどうするか決めなければ、この時間に、みんなでこの場所に集まった意味がない」



2037年10月2日 15時00分頃 とある媒体に録音された人間同士の会話にて:


「それで、国民に対しては、どのように説明するつもりで?」

「もっともらしいことを言う予定ですから、心配には及びませんよ」

「具体的な中身については、教えてくれないのですか?」

「どうしても知りたいですか?」

「はい、お願いします」

「仕方ないですね。特別に教えましょう。内容は……」



2037年10月3日 16時23分頃 とある人間の会見映像にて:


「ゼロ・トリガーという未知の脅威に対抗するため、我々は、国内全域に、迎撃型追尾ミサイルを配備する決定をいたしました。もちろん、すぐにというわけにはいきませんが、全ミサイルの生産が完了次第、各場所に一斉配備することを、国民の皆様にお約束いたします」



2037年10月9日 02時51分頃 とある人間同士の音声通話にて:


「しっかし、ずるいねえ」

「ホントそれ。あんなこと言っておきながら、中央政府周辺には先行配備だなんて、信じられないわ」

「きっと、国民を舐めているんだよ」

「自分たちは国家のエリートだからっていう理由で、どんなことでも許されると思ったら、大間違いだよね」

「そうそう。こんな政府には、お仕置きをしてあげなきゃ」

「それは楽しみ。こんな記事が発表されたら、SNSでの炎上は不可避だわ」



2037年10月12日 14時29分頃 とある動画サイト上の動画にて:


「皆さん、とんでもない内容が書かれた記事。これね、見た時、びっくりしました。良いですか、読み上げますよ?『国民の命を守るための軍備増強は、もちろんのことだが、それ以上に需要なのは、中央政府に勤める議員や、官僚の安全を保障することである』。政府のトップが、こんなことを言っちゃダメでしょう!?どこから、この情報が漏れたか分かりませんけどね、国民よりも、議員や官僚の命の方が大切だって、言っているようなもんですよ」

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