第20話 唾液味のガム(終了)


「光と当分は会えないんだね」


 加奈は短い言葉に、別れの寂しさをたっぷりと詰め込んでいた。


「僕もすっごく寂しい」


 光は専門学校に通うことになった。自宅からでは通学できないので、寮に引っ越すことになった。明日もしくは明後日には、東京に住むことになる。


 加奈は地元の企業に就職。四月からは社会人として仕事をする。


「お互いに別々の道を歩むけど、交際は続けていこうね」


 二人で話し合った結果、交際を続けることで一致した。高校卒業と同時に別れると思っていたので、意外に思ってしまった。


 最初の告白に成功していたら、別々の道を歩んでいたかもしれない。交際の遅れは、思わぬメリットをもたらした。


「毎日は難しいけど、連絡をなるべく入れるようにする」


「私も連絡を入れるようにするね」


 加奈はイチゴ味のガムを食べる。


「ガムのように、ずっとずっと続く関係になるといいね」


「そうだね。ずっと続けていきたい」


 ガムの味を吸い尽くした女性は、味のないものをこちらによこそうとする。


「光、ガムを食べてみる?」


「味のあるものを食べたいよ」


「恋人の唾液の味がついているでしょう。これほど贅沢なガムは、他には存在しないよ」


「加奈は面白いことをいうな」


 ガムを食べている女性は、勝ち誇った態度を取った。


「そうでしょう、そうでしょう」


 光はガムを口渡しで受け取る。


「味はおいしい?」


 ガムの味はなくなっていたけど、大切な人の味はたっぷりと感じられた。


「加奈の唾液味はとってもおいしい」


 加奈は大きく口を開けた。


「光の食べたガムを、こっちにちょうだい」


「わかった。すぐにわたす」


 加奈はガムを口に入れたあと、満面の笑みを見せる。


「すっごくおいしいよ」


 ガム交換をしているところに、みつばがやってきた。


「おにいちゃん、加奈さん、声が大きすぎるよ」


 光、加奈の顔は恥ずかしさで真っ赤に染まった。


「親しい二人を見ていたら、恋愛してみたくなった。来年には彼氏を作って、いろいろなことをするぞ」


 みつばの発言を聞いて、兄として素直に応援する。


「みつばもいい人と巡り合えるといいな」


 加奈の前だからか、いつもよりもいい子を演じていた。


「ありがとう、おにいちゃん。もうすぐお風呂が沸くから、二人でゆっくりと楽しんでね」


 二人で話をして、裸の付き合いを一度だけすることになった。彼女の裸体を見たと

きに、理性を保つことはできるのか。


「光、羽目を外し過ぎないように。あんまりやりすぎると、一瞬で嫌いになっちゃうからね」


「自信ないけど・・・・・・」


「性欲を持つのも忘れないでね。女性としてみてくれないと、ひねくれちゃうからね」


 好きな女性に性欲を持ちながら、羽目は外さないようにする。東大クラスの難問を押し付けられてしまった。お風呂に入浴したあとに、解答を導き出す自信はなかった。


「光、いこうか」


「ああ・・・・・・」


 加奈はこれまでで一番輝いていた。大好きな人の笑顔を見られて、最高の幸せを感じていた。これからも彼女の笑顔をたくさん見られるといいな。


 

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好きな女の子に告白したら、99パーセントの確率で浮気をするといわれました のんびり @a0dogy69

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