第12話 心の優しさは全部消える

 心は婚約者と籍を入れ、既婚者となった。


 既婚者となってからは、声をかけてくることはなくなった。彼女と接していたのは、幻だったかのようである。


 光だけでなく、他の男性とも完全に距離をとっている。実家から異性接近禁止令を出されているかのようだった。学校生活まで制限されるのは、相当な精神的苦痛を伴う。


 男性だけではなく、女性とも話をすることはなかった。孤島の中に浮かんでいる、岩さながらの生活を送っている。


 ぼっち生活を送っている女性に、ちょっとだけ声をかけてみたい。興味を持った男は、心のところに近づいていく。


「心さん・・・・・・」


「わたくしに何か御用でしょうか?」


 なれなれしさ、親しみやすさなどは完全に消えていた。感情を完全に殺した、指揮官そのものだった。


「最近、元気がなさそうだから・・・・・・」


「あなたは一人の部外者にすぎませんので、私のことを気にする必要はないでしょう。用事がないのであれば、近づかないでください」


 光に甘えてきたときの、心はいなくなっていた。彼女は一人の妻として、生きていく決心をしたらしい。


 冷めた態度を取る女性に我慢ならなかったのか、一人の女子生徒がすごい剣幕で突っかかっていく。


「心さん、自分勝手すぎるよ」


 心は全く意に介していないようだった。


「そうですか・・・・・・」


「光さんをあんなに追いかけていたのに、用済みになった時点で切り捨てる。心さんは人間の感情を持っていないの」


「あなたのような、一般庶民に何もいわれたく・・・・・・」


 女子生徒は堪忍袋の緒が切れたのか、心の頬を一発叩いた。


「言葉でいいくるめられないなら、暴力を振るんですか。あなたみたいな野蛮な人は、生きていることすら恥ずかしいですね」


「あんたって人間は・・・・・・」 


 心の席の近くに、2メートル近いボディガードがかけつけてくる。物騒な装備をしているからか、教室内は騒然となった。


「心様、頬が真っ赤ですよ」


 心は頬を叩いた女を、人差し指で示した。


「あの女に殴られた。ボディガードとして、きっちりと仕返しをしなさい」


 ボディガードはどういうわけは動かなかった。


「何をしているの? あの女をズタズタに・・・・・・」


 ボディガードの一人は、お嬢様に視線を向けた。


「話をじっくりと聞いておりました。お嬢様は人間の心を、どのようにお考えなのでしょうか?」


「私のいうとおりにしなかったら、クビにするからね」


「わかりました。専属契約を解除させていただきます」


 別の男二人も続いた。


「私もやめます」


「僕もおります。これ以上はわがままに付き合えません」


 心はお嬢様という立場を利用して、ボディガードをおもちゃのように扱っていた。そのことを知って、一人の人間として受け付けなくなった。

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