第11話 一安心

 廊下を歩いていると、想い人を顔を合わせる。


「光さん、奇遇だね」


「加奈さん・・・・・・」


 加奈の告白結果はどうなかったのか。光の頭の中は、そのことで一杯だった。


「好きな異性に告白したら、3秒でフラれてしまった。あなたのことは眼中にありませんといわれた」


 告白失敗に対して、そっと胸をなでおろす。交際を開始していたら、卒業まで付き

合う機会を失っていた。


「私がいうのもおかしいけど、心の傷をなぐさめて」


「加奈さん、それはずるくないかな。慰めてほしいのは、僕の方だ」


「ずるいのはわかっているよ。それでも、ちょっとだけなぐさめてほしい」


 あからさまに利用しようとしている女性に、条件を突きつけることにした。絶対に叶えられないような、ハードルの高いものだった。


「僕を好きになってくれるなら、たくさん慰めてあげてもいいかな」


 素直に応じなかった男に、加奈は冷たい視線を送っていた。


「素直に慰めておけば、心証はちょっとくらいよくなったのに。光君は絶好の機会を逃してしまったね」


 絶好の機会を生かしたとて、浮気率は99パーセントを維持したまま。他の異性を好きになった女性は、簡単に好きになる展開は期待できない。


 加奈のスカートがかすかに揺れる。風で揺れているというより、自分で揺らしているかのようだった。


「光君と話していたら、ちょっとだけ元気になった。私の愚痴を聞いてくれて、本当にありがとう」


 加奈の心は晴れても、光の心はモヤモヤしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る