第5話 異次元の思考をお持ちのお嬢様

 一日の授業が終わった。

 

 加奈にフラれたからか、頭に何も入ってこなかった。右からは言った言葉は、左から完全に抜け落ちた。


 加奈は授業を終えると、カバンを手に取った。告白に失敗したばかりということもあって、近づきたい気持ちになれなかった。下手に距離を詰めようものなら、絶縁されるリスクもある。3カ月後になるまで、じっと、じっと耐え続けるしかなさそうだ。


 恋心を持っている女性に、3カ月も声をかけられないのは地獄さながら。ノイローゼ、精神疾患などを発症しなければいいけど。


 帰宅の準備をしていると、学校一のお嬢様が目の前に立っていた。


「光さん、先ほどは失礼いたしました」


「そんなことはないから・・・・・・」


 心は腰まで伸びた髪をくくる。


「光さん、おうちにやってきませんか。お昼のお詫びをさせていただきたいです」


 心は愛情表現をストレートに表現する。そのことを羨ましくもあり、疎ましくも感じられた。


「そこまでしなくても・・・・・・。悪いことをしたのは、むしろこちらだよ」


 光、心に大量の視線が注がれていた。注目されるのは苦手なので、別の方向を向いてもらえるとありがたい。


 加奈の視線は、こちらに向けられている。他の誰に誤解されてもいいけど、彼女にだけは事情を分かってほしかった。


 心は聞いてもいないのに、大胆なことをぶちまける。


「私は18歳になったら、○○株式会社の方と結婚します」


 ○○株式会社は、日本でトップクラスの一流企業。日本における認知度は、100パーセントに限りなく近い。


「18歳になるまでは、自由に恋をしてもいいといわれています。本気で好きになった人と、一秒でも長くいたいです」


 心は情に訴えかけてきた。不細工だと心に響かないけど、美人だとぐっとくるものがあった。


「私に残された時間は、ちょっとしかありません。光さんと一秒でいいから、一緒にいたいです」


 心の話を聞いて、かすかに同情心が芽生えた。


「ちょっとだけなら、一緒にいてもいいかも」


「ありがとうございます」


 心は体を密着させようとしたので、光は咄嗟に距離を取った。


「体を密着させようとするなら、一緒にいるのは難しい。最低限の理性を保つことは、二人でいる絶対条件だから」


「肌をくっつけるのはダメですか?」


 学校は公共の場である。そのような場所において、肌を密着させるのはおかしい。


「学校では絶対にダメ」


 心を好きになれない理由は、世間一般と思考回路がかけ離れすぎているから。彼女

のとる行動のほとんどは、常識人とはいいがたい。


「光さんに聞いた、学食に足を運んでみました。あそこで売られている食事は、犬のエサ代の0.1パーセントにもなりませんね」


 犬のエサ代の0.1パーセント未満。彼女の家に住んでいる犬は、どんなものを与えられているというのか。


「私は生まれてから、1万円札だけを使っていました。1円、5円、10円、50円、100円、千円札、五千円札は見たこともありません」


 1万円札だけで、生活を送ってきただと。一般所民には絶対にありえない価値観を持っている。


「うどんを200円で食べられるのは、まったく知りませんでした。うどんは10000円以上すると思っていました」


 10000円以上のうどんなんてあるのか。光の目は点になってしまった。

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