第4話 お嬢様にどういうわけか好かれています
廊下を歩いていると、目の前にハンカチが落ちる。咄嗟に拾おうとすると、誰かの手と重なった。手の柔らかさからして、男ではないのを瞬時に察する。
「すみません。大変失礼しました」
「私のほうこそごめんなさい。無意識のうちにハンカチを拾おうとしてしまいました」
妖精さながらの甘い声。振り向かずとも、誰なのかを察する。
「心さん・・・・・・」
心の頬は赤く染まった。
「光さん、とっても温かいです」
学校一の美人と手を重ねたのに、高揚感はかすかだった。本命の女性でなかったため、興奮することはできなかった。
心は瞳をキラキラさせている。本当に好きな男性の前では、女性は眩しいくらいに輝けるようだ。
「光さん、一緒にランチをしませんか。高級ステーキ、フォアグラ、トリュフなどをご馳走させていただきます」
資産家のランチは、一般人の食事とはあまりにもかけ離れている。一般家庭はディナーであっても、ステーキ、フォアグラ、トリュフを食べるのは稀だ。
「僕は学食で十分だよ。ステーキ、フォアグラ、トリュフを食べたいとは思っていないから」
一般庶民には、200円~300円の学食でちょうどいい。それ以上の金額になると、自分のおこづかいはきれいに吹き飛ぶ。ステーキ、フォアグラ、トリュフクラスになると、1年分以上は簡単に消え飛ぶ。
心はどういうわけか、二つの目をウルウルさせていた。
「学食とは何ですか? とっても興味深いです」
学食を知らないまま、高校二年生にあがった。お嬢様というのは、一般社会からとことんずれている。
「心さんのような、お嬢様には縁のないところだ。興味を持ったのであれば、一人で行ってみるといい」
「一度でいいから行ってみたいです。一人では恥ずかしさもあるので、ご一緒していただけないでしょうか?」
情に訴えかけてくる、キラキラとした瞳。反則の領域を、明らかに肥えてしまっている。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
罪悪感を軽減するため、廊下を全速力で走る。人に何度もぶつかりそうになるも、かろうじて回避することができた。
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