第30話 それは本当ですか?
信じられないことを耳にした俺は、思わず聞き返す。
「……それは本当ですか?」
「ええ、恥ずかしながら。私は手先が不器用ですので料理はできませんの」
どういうことだ、理解が追いつかない。
鼓動が徐々に早くなっていく。
「そうなんですね……。あの
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
俺は了承をとったあと、ひとつひとつ確認していく。
「
「
昔、
「家族のなかで料理ができるのは
俺が頭に疑問を浮かべていると
たしかにそうか、大グループを統べる
「
「ええ、あの子はとっても上手ですよ。料理長から指導を受けたり、祖母から料理を学んだりしていたので。それに高校に入ってからはいつもお弁当を持参しているくらいですから」
なんと
いつもおかあさんの名前を出して自分は普段料理をしない素振りをみせていたから気づかなかった。
けれどスーパーでの食材選び、俺への料理の指導などでレシピを見ずに教えている場面が何度があった。
暗記をしたからじゃなくて体が覚えていたというわけか。
「では
「はい。料理ができないのでレシピを書くなんてとてもではないですができない芸当です」
念のため確認したのだが、当たり前の回答が返ってきた。
レシピ通りにするのも難しいのにレシピを作るなんてもっと上級の行為だ。
思い返してみれば、レシピに書かれてある字は
考えてみれば気づけるポイントはあったのだ。
「
まっすぐに俺の目をみて
俺は深呼吸してからここ最近でなにがあったのかを伝えることにした。
「
「なんと、まあ!」
それもそうだろう、知らないところで自分の名前が出されていたのだから。
「その次の日も、いえ、それから毎日お弁当を持って俺の家に来てくれました」
「あの子ったら、最近なにかあると思っていたのですが家に押しかけていただなんて。
「
「たしかに初めの頃は元婚約者のご家族の方に会うなんて気まずいなとか、もう関係がないはずだから好意であったとしても受け取ってはいけないよなとか、色々と考えて困っていました。けれど、いま思えばあれがなかったら自分はどうなっていたか分かりません」
あの日々を振り返る。
お弁当の優しくて丁寧な味と栄養のバランス、人の温もりが感じられるそれは一人暮らしの俺にはとても助かることだった。
そして次の日も
「そう言っていただけますと、幸いです」
「そうだ、様子がみたいから写真を撮ってきてって頼んだこともないですよね?」
「いえ、それは恐らく頼みました」
なに、写真を頼んでいたのは本当だったのか。
「
「えっと、どういうことでしょうか?」
「いえ、すみません。こちらの話です」
深く聞きたくなったのだが後回しにして続ける。
「ではエプロンも
「エプロンですか? それはいったいどんなものでしょうか?」
「これなのですが、見覚えはございませんか」
質問されたので俺はスマホにある写真をみせて確認する。
お弁当もそうだが、物をもらっていたのならお礼をしなくてはいけないと前から思っていたのだ。
「あらあら、二人して料理を作っているんですか? 仲が良さそうですね」
「いや、あの! これは、その……」
エプロン単体の写真はないので着ているところしかなかったのだが、よりにもよって
慌ててスマホをポケットにしまう。
恥ずかしい、体温が上昇して変な汗をかく。
ちなみに写真は
承認するまで何度も送って来るものだから拒否できなかったのだ。
「残念ながらそのエプロンに見覚えはございません。でもその写真をみて
さっきからの問答で気づいたが、恐らく本当に
全部
「私から少しお話しよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」
俺ばかりが質問をしていたので、次は
「話とは、ここ数年の
母である
俺が黙っていることを肯定ととらえてくれたのか
「
「いえ、それは気になさらないでください」
「ありがとうございます。
前の
俺が失敗した料理をだした時は美味しくないとちゃんと言ってくれたし、気を使って相手に合わせるのではなく、相手のことを想って自分の意見をいえる子だった。
「これまで通っていた小中高の一貫校である女子校から
「いまにしてみれば、そうなったのは三年前、
俺がしたことが
「最近はほんとに楽しそうでした、それは
「そう、ですね……」
「やはりそうでしたか。つまり、そういうことなのですね」
「どういうことでしょう?」
「申し訳ございませんが、私も想像の域をでませんので、不確かな内容を
それはそうだ。
あくまでも
だったらなぜ、
誰かにお願いされるわけでもなく、お弁当を作って毎日家に来る理由はなんだったのだろう。
そして、来なくなった理由はなんだろう。
それを考えたら
顔をみて話が聞きたくなった。
「あの、
「いえ、今日は出かけると言ってましたよ」
出かけるのか、だけど今日は休日だから探せば見つかるはずだ。
「
「はい。どうしても
俺は
なぜなら一刻も早く彼女に会いたかったからだ。
連絡先を知らなくとも会える気がしていた。
だって今日は――。
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