第17話 元婚約者side③
当主である
「俺たちは真実の愛をみつけたんです。だから
「私、
しかし、自分たちの愛がどれほど大切が、どれだけ想いあっているかをうるさいくらいに伝えていただけだった。
謝罪は出会ってひとこと「すみませんでした!」と、いったきり。
しばらく聞くことに徹していた
「もういい、分かった」
「本当ですか! 良かった……」
「ありがとう、お父さん……」
「分かったから、二人ともその口を閉じていろ」
低く響く声が応接室を満たし、聞くものに威圧感を与える。
大企業の社長の言葉は、えも言えぬ迫力があった。
ひっ、と二人の息をのむ。
二人は幸せな雰囲気から、一気に絶望へと転落する。
「勘違いしているようだが。私は二人の結婚のことなぞ、どうだっていい」
「んなっ! なんでですか!」
「お父さんどういうこと!」
「黙れ」
二人はビクッと肩を震わせて、ようやく静かになる。
「先にいっておくが
鋭い眼光が
いつもの父とは違った様子に
お前、なんていわれたことも初めてだった。
それもそのはず、家族の前でみせる顔と、普段の経営者としての顔は違う。
この態度がすでに家族ではないことを強調していた。
「それを踏まえてだが、他人である
「私のところに謝りにきたという姿勢は認めよう。しかし、来るのがいくらなんでも遅すぎないか? 普通なら当日、遅くとも次の日には訪問すべきだろう」
「それは……!」
「答えなくていい」
湊がなにか言いかけたが、
「理由はどうあれ事実は変わらない。それが
「自分たちがなにをしでかしたのか分かっていないようだ。では、今から説明しよう」
「まず
「そんな! 女性でも慰謝料を払う必要があるの!?」
慰謝料と聞いて姫乃は堪らず叫ぶ。
「慰謝料を支払うことに性別は関係ない。伸び伸びと育てたつもりでいたが私は教育を間違っていたみたいだ。こんな子を
「う……そ……」
「侮辱罪は親告罪にあたる、
犯罪者だと突きつけられた
「次に君だが」
「君じゃなくて、
「もう会うことのない人間の名前を覚える必要はない。君も同じく
冷静にみえる
「他にも結婚式場からすれば建造物侵入罪、いわゆる不法侵入。そして業務を妨害したことによる業務妨害罪。出て行くときに扉を壊していっていたことによる器物破損罪。まだある。取り押さえようとした警備を突き飛ばしていたね、彼がどうなったか知っているかい? 突き飛ばされた拍子に手をついてしまって骨折したそうだ。つまり、傷害罪だ」
追い詰められた
最初の威勢はどこにもない。
「結婚式場と警備員から告訴状は提出されているはずだ。近々君の元へ警察が行くだろう」
「け、警察っ……!?」
「なにを驚いているんだ。犯罪行為をしたんだ、当たり前だろう」
「でも、俺は……ただ、
「それで結婚式当日に挙式に乗り込んで来たというわけか。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。ならなぜもっと早くに
「話は終わりだ、出ていけ。そして二度と姿をみせるな」
完膚なきまでに言い負かされた二人はなにも言い返すことのできないでいた。
しばらくして、力なく立ち上がり、うなだれながら部屋をあとにした。
ずっと話を聞いていたが、二人は自分たちの愛がどれだけのものかを語ることに重きを置いていた。
謝罪なんて二の次だ。
愛さえあれば誰もが祝福してくれて当然かのように振る舞っている姿に心底呆れたよ。
それに私への謝罪はあれど、自分たちがしたことの重大さを理解していないままの謝罪なんてないも同然だ。
そして、新くんへの謝罪は一切なかったな。
それが本当に許せなかった。
だから少々熱くなってしまったよ。
経営会でも常に冷静な
あの式の後に私も処理のために
時々、この
そうだ、
彼には彼の幸せがあるのだから。
そして、今日きたあの男は調べれば調べるほど、ろくでもない男だった。
勤め先に圧力をかけて職を失わせる案もあったのだが、そもそもあいつは職に就いていなかった。
大学を卒業してからなにもせず、完全な
周囲には自分はなにか大きなことをすると、普通のことはしたくないと触れ回っていたそうだ。
学生時代に体育祭や文化祭などで活躍していたそうだが、所詮学生時代の栄光だ。
大抵は努力もせずにそこそこ上手くいく人生を歩んできたのだろう。
社会人になってからの方が人生は長い。
自分を特別だと誤認し、努力しない人間に成功はない。
今回の件はあいつのご両親にも通達がいっている。
そろそろ海外から戻ってくるころだ。
あとは司法と向こうのご両親に委ねようではないか。
それにしても真実の愛だなんだとしきりにいっていたな。
私の見立てではそれが覚めるのは時間の問題だ。
子どもの頃の約束は一見
「見せかけの愛がなくなったとき、二人に残るものは果たしてあるのだろうか」
屋敷をあとにする二人の丸まった背中を
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【あとがき】
お読み頂きありがとうございます!
※今回、法律について頑張っていろいろ調べたのですが間違ってるところや、おかしなところがあるかもしれません。そのときはやさしくお教え頂けますと幸いです……。
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