第15話 お義兄さん、最後まで付き合ってね?
「お義兄さん、それ似合ってる! 次はこれ、着てみて」
「わ、わかった」
俺は手渡された服をもって、更衣室のカーテンを閉める。
俺たちは大型のショッピングモールに来ていた。
朝、
昨日、気を引き締めていたのはなんだったのか。
百貨店や路面店でブランドの服でもねだられるんじゃないかと思っていたけど、いらぬ心配だったみたいだ。
そもそも
自分のことは自分でしっかりとできる良い子なのに、俺はなにを構えていたんだ。
着替え終わった俺はカーテンを開けて、
「どうかな」
「わ、こっちも似合ってる。カジュアルなのも良いけどモードっぽいのも似合うね」
ぱしゃりぱしゃり、とスマホで写真をさまざまな角度から撮られる。
かなり恥ずかしい。
「あの、
俺は思わずたずねる。
「そ、そんなことないよ。ほら、いろんな服を着たらどれがよかったか忘れちゃうでしょ? あとで見返せるように残してるの」
そう答える
なるほど、写真を撮ることにそんな理由があったのかと納得する。
多く写真を撮ることでディディールなどの比較もしやすいのかもしれない。
自分ひとりのときは鏡でみるしかできないから、客観的に検討できるのはいい方法だな。
俺にはない知識を持っていて感心する。
好きなものを語るときは早口になってしまうのも
今日の
いつものチョーカーに、オフショルダーかつ着丈が短いスウェットにタイトなミニスカートにロングブーツ。
着丈が短いためそこから細いウエストがみえていて、おへそにはピアスが光っていた。
少し露出が多い気がしたが、これくらいは普通だそうだ。
実際にモールを歩いていると多くの女性が、肌みせファッションをしていた。
その中でも
俺の目から見ても頭ひとつ抜けているのわかるくらいには。
ミニスカートから伸びた華奢な足は、陶器のように白くて綺麗だった。
「お義兄さん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
意識をしていなくても自然と目を惹かれる美しさがあるから困る。
「そっか。じゃあ、次はこの綺麗めの」
「
俺が着替えてるあいだに選んでいたのだろう新しい服をもった
「なんかずっと俺の服を選んでないか? 今日は
「ん? これが
「え、聞いてなかったんだが」
「だって、言ってないもん」
ふふ、と
「お義兄さんには、
そういうことか、本当に
スタイリストとかの職業につきたいのだろうか?
「だから最後まで付き合ってね?」
俺としては、私服で過ごす機会が増えるだろうから、選んでもらうのは願ったり叶ったりだ。
ファッションに興味がないわけじゃないが、おしゃれな人に選んでもらったほうがいいことは分かる。
「ああ。
それからいつくかのショップに入っては、俺は
◇ ◆
「お義兄さん、
「ありがとう。でも、大丈夫。全部俺のだからな」
両手にたくさんの紙袋をぶらさげながら俺は歩いていた。
これで今シーズンの私服には困らないだろう。
そして、服だけじゃなくお皿も買った。
流石に自分のものばかり買うのも気が引けたので、
なんでも一緒に料理を作ったときにお洒落なお皿に盛り付けたいとのことだった。
一緒にお皿を選ぶのはなかなか楽しかった。
このお皿にはどんな料理を作るか、あの料理ならどんなお皿がいいかなんて話しながら数組みつくろった。
結局、俺のためのものを買うことになってしまったのだが。
「それにしても最近の服はなんでもオーバーサイズなんだな」
「うん。色々流行りはあるけど、基本はそうだね。お義兄さん身長高いから前は服えらび大変だったんじゃないの?」
「そうだな。身幅で選ぶと袖が短いし、袖で選ぶとぶかぶかでだらしない感じになるんだ」
なまじ身長が百八十後半があるから困ることが多かった。
「だから昨今の流行のおかげで助かったよ」
「でも、ただオーバーサイズを着たらおしゃれってわけじゃないから難しいよね」
そう、
大きい服が多くなって選択肢は増えたけど、いいバランスを探さないといけないのには変わりない。
「そこは
「ううん、私が選びたかっただけだから」
そういいながらも、足取りが軽くなっている
自分の好きな分野を褒められると嬉しいんだろう。
「
「まあ、自分が着るものだからな」
いろいろ着た中でどれが好きか選んで欲しいといわれたので、
選んでもらったものを全て買うこともできだが、好みじゃないものを嫌々着るのは違うし、なにより意見交換は大切だ。
「ただ、好みかそうじゃないかというだけで
「そうだよね! お義兄さんはスタイル良いから選ぶの楽しかった」
ずずい、と
甘く優しいかおりが鼻をくすぐる。
「そ、そうか。楽しんで頂けたようでなによりだ」
「あ、最近気づいたんだけどお義兄さんってちょっと猫背だよね?」
「なに、猫背になっていたか」
「うん、背が高いのにもったいないよ」
「昔に住んでいたアパートがあまり大きくなくて、
俺は頭をさすりながら、言い訳のように理由を話した。
「ずっと意識していたのにな。気を許すとうっかり昔に戻ってしまうんだ」
「気を許すとね……ふうん」
なにか思うことのあるように
姿勢をずっと意識できない、だらしない人だと思われているのかもしれない。
「あれ、昔に住んでたアパートって? 一ノ瀬家はアパートじゃないよね」
しまった。
本当に気が緩んでいるのかもしれない。
前のこともあるし
「そうだな。そろそろお昼にしようと思っていたし、ご飯でも食べながら話そうか」
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