第282話 ヤンキーと女児の歪なハーモニー

「はぁ~。やっちまった。」


ボコボコにした伊藤達を前にベンチに座りタバコをふかす黒井。


「ぷはぁ~」


幸いここは人通りの少ない場所。更にこの大雪だ。人も来ないだろ。来てもクソガキ程度だろ。


「さっ、さっさと帰って寝よ。服血まみれだよ。クソが。捨てないといけねーじゃん。めんどくせぇ。」


あと1年間これ、この服で過ごそうとしていたのに、また新しいの買わねーと。ダリィ。


「はぁ~。帰ろ。人が来たらめんどくせ」


「ねぇねぇおにぃさん。」


今めんどくせぇ。と言おうとしたばかりだったのに。聞こえてきた声。その声は低い場所から聞こえてきた。さらに可愛らしい声だった。


見下げると小さな女児がいた。


来るとしたらガキくらい、黒井の予想は当たった。


「ねぇねぇおにぃさん。おにぃさん。」


何度も尋ねてくる女児。無視することも出来なさそうだ。


「なんだ?クソガキ」


「おにぃさんがこのひとたちやっつけたの?」


「やっつけた?やっつけたてかまぁ、やったのはオレだけど。」


「お~~。」


パチパチと拍手をする女児。コイツ馬鹿にしてんのか?


「だから何だよ?それがどうした?」


「え。そのまえにたばこくさい。けして?」


「何でお前の言うこと聞かないといけねーんだよ?馬鹿か。」


「う~ん。あ、わかった。じこしょうかいすればけしてくれるんだね?わかった!」


「お前話聞いてたか?したくない聞かないと言ってるよな?」


「わたしのなまえはぁ。」


「聞いてねーわ。コイツ。」


自由だな。だからガキは嫌いなんだよ。


「わたしのなまえは、

ゆりあ アリス よろしくおにぃさん。」


「何がよろしくだ。勝手によろしくしとけ。帰る。」


「ちょっとまって!」


「うるせぇな………」


耳にキンキン聞こえる。ダル………


「おにぃさん。おしごとしてる?」


「してるよ。だからなんだよ?」


「なにしてる?」


「ホスト」


「ほすと?」


首を傾げる女児。


「あかいやつ?」


「ポスト」


「さいご?」


「ラスト」


「おきゃくさんのこと?」


「ゲスト。…………もうダルいから帰っていいか?」


「ダメっ!」


「うるさ…………やめろ…………うるさい」


「じゃあいいたいことだけいうよ!」


「あ~、そうしてくれ。ダルいし寒いし早く帰りたいから早く言え。クソガキ。」


「おにぃさん。おなまえは?」


「言いたくない場合は?」


「ぎゃあーっていうよ?」


「その歳で脅しを覚えてるのは生意気だな。」


はぁ~と溜め息を出す。


「黒井だよ。黒井。」


「くろい………くろいおにぃさんだね?くろいおにぃさん。わたしからおねがいがあります。」


「お願い?」


「うん。そのおねがいは………わたしのぼでーがーどになってくれませんか?」


「…………は?」

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