第154話 お前は俺の

「間に合った!」


一階にある職員室にあと数メートルのところで何とか彼女、綾崎を止めることが出来た。


何故…………何故…………私を悪く、悪者、バカ者にしてよ。

綾崎はぐっと自分の腕の肉を摘まみながら口を開く。


「あ、晃太くんじゃん?生きてたんだ?」


「あ、綾崎っ!」


「待て。香織。」


獰猛化した香織を止める晃太くん。

止めずに無茶苦茶に殴ってくれたらいいのに。


「あちゃあ~、刺しドコロ悪かったね?もう少しグサッと刺していれば死ねたのに。残念。」


こんな言葉言いたくない。けど嫌われて彼の前からいなくなるには充分だ。


「でもかなりダメージ食らったみたいじゃん?これで私の怖さが分かったでしょ?私は刺すの。刺してしまう系女子なの!だから分かったなら私から離れた方がいいよ。」


「…………香織………肩ありがと。」


私はどんな顔をしてるだろう。泣きそうな顔はしてないよね。悪い顔が出来てるだろうか。嫌われるような態度が出来ているだろうか………

もう嫌われたいんだ。嫌われ……


ギュッ。


晃太くんが私に抱きついて来たのが分かったのは……少ししてからだった。


「なっ………」


「………」


ただ黙ってその様子をみる香織。いつもなら怒るはずなのに…………


「何で引っ付くの!気持ち悪い!やめて!」


「…………」


ホントは嬉しい。だが……嬉しんじゃダメだ。だって私は犯罪………


「俺が黙っていればお前は犯罪者にはならない。」


「は?」


「俺が一緒に放送室ジャックしたことは謝る。だけど刺したことは言わなくていい。余計な一言だから。」


「は?何でそんなことして………晃……アンタに何の得があるのよ?」


「得はない。」


「なら……」


「だけど友達が犯罪者になるのは俺は嫌だ。」


晃太の声は大きい声で綾崎の中に入った。


「と、友達?」


「友達だろ?俺らは。友達が犯罪者になるなんて俺は耐えられない。ってか自分が耐えられるくらいの痛みのダメージで犯罪者にするのなら俺はその事を一生後悔する!だから!行くな!綾崎!いや、彗!」


必死な顔でそう言う彼。

でも。


「私はあなたに………傷を負わせたし……」


「腹だし大丈夫。背中なら、背中の傷は男の恥だけどな。」


「それにまだ諦めてないかも!香織との関係を!」


「それは直接対決しましょ?私に勝てるなら望むところよ。」


香織までも…………


「だけど、だけど、私はあなたたちにとって迷惑な存………」


「迷惑じゃねー。友達だろ?」


「友達?」


「少なくとも俺はそう思ってる香織の次に仲良い女友達はお前かアリスさんかくらいだから。」


「まぁその次、にかなりの差があるけどね?」


「香織煽んな。話まとまりそうなんだから。」


抱き締めたまま、そしてフラフラな体のまま晃太は言う。


「だから帰ってこい。俺は許すも何も話を大事にしたくない。だから………友達として、綾崎、いや彗。帰ってこい!」



帰ってこい!帰っていいの?私みたいな者が?私は刺した。大事な人を。けど友達って…友達が…友達が…友達が……刺したのに刺したのに

帰ってこい!帰ってこい!帰ってこい!帰ってこい!









帰っていいの…………?




綾崎 彗はその日一目を考えずただひたすら廊下で泣きわめいた。声が枯れるくらい泣いた。



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