第150話 暴走と鎮火

「お前は刃物を持つのが好きだな……」


「今日はでも果物ナイフじゃないよ?」


「だからって偉いってならないよ。」


どちらもしっかりとした刃物だから。


「刺されたい?」


「は?」


「刺されたい?刺されたいなら刺してあげる。」


「そこで刺してって言う訳ないよな?」


「じゃあ………この子を刺してもいい?」


隣で震える逃げ遅れた女の子を刺そうとする。


「なんでだよ。その子は俺とお前の会話に関係ないだろ?」


「人質みたいな?」


ハハッっと笑う彼女。


「俺……お前を犯罪者にはしたくないんだよ。」


「じゃあ付き合って?」


「それは無理なんだよ。」


「じゃあ傷つけることはあり得るよね。」


カッターナイフが人質となった彼女の喉元に近づく。


「やめろ!」


「やめろじゃないでしょ?私の言うこと聞いてくれないからじゃん。」


「無理なモノを無理と言って何が悪いんだよ?」


「簡単なこと言ってるはずだけど?香織と別れろ、ただそれだけ。」


彼女はカッターナイフを首もとに近づける。


「簡単に別れるなんて出来ないの分かるだろ?」


「ふればいいだけじゃん?」


「お前は………昔から変わらないな……」


「う?」


彼女の顔が少し歪む。


「自分の思いどおりにならないと暴走する、それは小学生から変わってない。」


「人間変わりたくても変われないんだよ?」


はぁ………と溜め息をつく晃太、そして。


「正直に言うよ。香織のことは今でもよく分かんない。好きとか愛してるとか本音を言えば分かんない。急に襲われて急に付き合ったから急過ぎて頭がついていってない。」


「お!なら………」


「でもアイツが本気で俺を愛してることだけは伝わってきてる。だからそれに報いたいと思ってる。だからお前とは付き合えない。」


出会いでは始まりは急だった。だがアイツが晃太を愛してる、愛しすぎてるのは頭が痛いほど分かる。だからアイツ以外に付き合う、いやアイツ以外に時間を割いて好きという感情に向き合うのは難しいのだ。


「わかってくれたか?綾崎?」


「…………」


「わかったなら早くここから出て職員室まで謝りに行こう。俺もついていくから。な?」


「……………」


人質となっていた少女の首もとからカッターナイフをどける綾崎。


「綾崎………早くこっちへ……」


そう言った次の瞬間だった。

綾崎の持つカッターナイフは綾崎の腹に向けられた。そして………


グサッ。


腹に刺さるカッターナイフ。

肉に刺さり骨まで刺さったかもしれない。


「………………へ?」


だが痛みは綾崎にはない。

もちろん人質の女子にもない。

あるのは………


「お前………以外と深く………刺すんだな……ビックリしたわ……アハハ……」


バタっと倒れる晃太だった。


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