第145話 地獄のその先。彼女の思う未来。

とりあえずナイフを持った香織によって椅子からの解放には成功した。

だがここからでもあった…


「綾崎…そこ退いて。」


「アンタが私に命令するなんて偉くなったもんね?昔はいじめられて泣いてたあの弱虫が。」


「あの時の私は死んだの。今いるのは新しい私。あなたの知らない私だから。だから退いて。」


「退かない。」


「退いて。」


「退かない。」


「退いて。」


「退かない。」


「退い」


「退かないって言ってるだろうが!」


ヒュッっと香織の頬を掠めるのは果物ナイフ。


部屋の奥にブーメランのように刺さっている。


「警察沙汰だからね?」


「警察呼ばれてもいいよ。晃太くんの精子さえくれるなら。」


目の奥の光は依然としてない。


「許すと思う?」


「許す、許さないはどうかとしてアンタがいれば晃太くんは私のモノにはならない。そう思ったから誘拐したんだよ。」


誘拐の意識あったのかよ。

彗の言葉を聞き香織もぽつりぽつりと話し出す。


「前あなたが言ってたわよね?私はまだこうたんとの子を成してないと。」


「言ったわ。」


うん、ちょっと待ってね。割り込みして悪いんだけど…潰れたドアに裸でナイフを持つ女と爆竹を持つ女。何このカオスな画面…


「確かにまだ私は子を成してないかもしれない。」


「でしょ?だからスタートラインは同じ…」


「でも肝心のこうたんの気持ちはどうだろうか。」


「え?」


「こうたんは、私を選んだからこうやってバカをやっても一緒にいてくれる。バカな私を見てくれる。でしょ?こうたん?」


何か言え。とりあえずカマセ、というような顔の香織…仕方ない。


「彗さぁ…確かにお前は可愛いよ?胸もデケーし変な気を起こしたのは認める、けど俺にはもうこのバカがいるんだわ。逃げたくても逃げれないくらいガチガチに鎖で縛られたこの、人よりだいぶ愛の重い彼女がいるんだわ。マジで。だから彗とは付き合えないしセックスとか性行為は出来ない。ごめんな。」


その言葉を聞きながらわなわなと震える彗。

そして…カラン…っと果物ナイフを落としその場に座り込む。


「…よし。行くよ。こうたん。」


「え、アレ置いて?」


アレを置いていくのかなりの心残りなんだけど…


「私よりあの人のほうが大事な訳?」


「うんなこと言ってないよな?」


「ふ~ん…」


ギロっとした目で睨む香織。


「まぁいいよ。早く帰ろ。」


「う、うん…わかっ、た。けどここの管理者さんにはちゃんとお詫びしような?」


「何の?」


「ドア以外の何物でもないけど?」


「あれは必要経費だよ。」


「ホテルにとってはとんだ大損害だよ。だから謝ろう。俺も謝るから。」


「は~い…」


「何で不満げなんだよ…」


「じゃあそれが終わったら私の家に来てね?」


「は?何で?帰らせ」


「躾。まだ終わってないよね?他人の女で勃起したよね?私許さないから。私以外で勃起するの許さないから。

だから私の家で躾、調教だね?早く行くよ。」


晃太、地獄の先にはもう地獄はないと思っていたが…

あるんだね。

地獄のその先って。




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