第83話 人の数だけ圧がある。圧がある分心拍数が増す。

「香織……無理だって……」


「香織じゃなくてかおりん!あんだーすたん?」


「いやっ、そういうことじゃなくて……一発目から飛ばしたら進藤も無理があるって?」


「何が?」


「何がって………今まで手も繋げてなかったんだぞ?それが急に恋人繋ぎからの手の甲にキスって………無理に決まってるだろ……」


「いや、でも刑は執行されたから。」


「いや、刑とかじゃなくて……ほら見ろよ。進藤の顔、死んでるぞ。」


「百舌鳥ちゃんは真っ赤で林檎みたいで可愛いね!」


「いや、そんなこと言ってる場合ではなくてだな……」


「とりあえずちょっと待つよ。」


「待つって………」


「待つの。待つたら待つの!」


「あ~、うん………」


待ったところで何もないと思うが………と晃太は思った。その思った通り………


10分 20分 30分…………ピクリとも動かない進藤、百舌鳥先輩。逆にスゴいことだけど。しんどくないのか?もうそこだけ時空が止まってるみたいになってるけども?

それに段々人も多くなってきたし………平日とはいえ、ここは街のセンター街、人通りは多い。段々進藤たちを見るのも困難になりそうだった。


「な、言っただろ?無理だって。今日1日でどうにかなる問題じゃねーんだよ。ほらなんかライム送って動かそうぜ?少しずつ改善していけばいいじゃねー……」


「こうたん。潔癖症の人の直しかたって分かる?」


「何だよ?急に?」


「その潔癖症の人の家に行って何もかもぐちゃぐちゃにするの。ぐちゃぐちゃに荒してあげるの。そうすると潔癖症が少し改善されるんだって?」


「荒い技だな………で?その話と進藤の今がどう関係あ」


スチャ。


香織は鞄の中から何かを出した。それは……


「あ~、テスト、マイクのテスト~。聞こえますか~?大丈夫そうですね~。あ~、お仕事中お遊び中色々中の皆様こんにちは!私は沢 香織といいます!」


拡声器を出し周りの人間の足を止める香織。

おい、お前……と止める暇もなく暴走は続く。


「え~皆様は彼氏彼女はおりますでしょうか?おられる方は多々いらっしゃるでしょう?だがしかし今この場にある問題を抱えたカップルがいるのです!あちらをご覧ください!」


っと進藤、百舌鳥先輩に指差す香織。

群衆がぐるりとそちらを向く。


「あの2人は半年にもなる交際期間でキスもハグも手を繋ぐことすらできていないのです!」


周りがざわざわする。

え、半年?

ちょっと長過ぎ?

てか、付き合ってんの?マジで?

などトゲのある言い方が多い。


「そんな2人に今私はある指令を出しました!手を恋人繋ぎする、そして手の甲にキスをする。この2つを私は指令をしました!皆さんも一緒に応援してください。2人の未来のため。はい!」


香織の煽りとともに群衆から頑張れだのひよるなだの各々各自の声が聞こえてくる。

それはもう応援ではなく一種のいじめや処刑に近いモノで……


進藤の顔は真っ青真っ青真っ青になり………

まるで逃げ出すように手の甲にキスを軽くし恋人繋ぎで走り出した。

その姿を群衆は拍手で送り出す。


いや、何にもいい話じゃないから!

香織………何でもするって言ったけどこれ…ある意味薬やバットとかより怖い脅しだよ。

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