第65話 過去は過去。未来は自分の力でどうにでもなる。

五十嵐 忍。15歳。

最初はいじめられていた女子を助けただけだった。それが全ての始まり。

一発殴った。一発蹴った。それが全ての始まり。元々兄弟の中でも出来の悪い俺は中学に入り勉強についていけなくなっていた。

そんな苦しい時期に起こしたのが喧嘩だった。

喧嘩してる時誰かを殴ってる時誰かを蹴っている時だけは落ち着くことが出来た。

全てを忘れることが出来た。

だからもうリミッターを振り切り優等生をやめピアスに金髪にバットに野球ボール、それが忍の装備となった。

そしてそんな忍の強さはとどまるところを知らず一人で一つの不良グループを壊滅させてしまうほどだった。

それでついた名前が 鉄追の鬼。


だがもうここまで登り詰めたが、そのあと快感を得ることが出来なかった。

どれだけ殴っても蹴っても気分が上がることはなくくる喧嘩をただ無心で壊していく、そんな日々が続き。


飛び降り自殺をしようと屋上に上がった。

柵を跨ぎもうあと一歩の時。


「ちょっと待って。」


誰かの声が聞こえた。

その声の主は女子だった。


「君そこから死ぬつもり?」


「なんだよ?悪いか?お前に関係ねーだろ。」


「まぁ関係はないけどぉ。」


だんだん近づいてくる彼女は……


「ねぇ!貴方 鉄追の鬼って呼ばれてるの?」


「どこでそれを?」


「周りの病院にいる人からポツリポツリ あれ鉄追の鬼じゃない?って声が聞こえてきたから?」


「…………で、もし俺がその鬼だったとしてどうするつもり?」


「一回腕相撲しない?」


「ハァ?」


「私以外と強いんだよ?」


「話が見えねーんだけど。俺の状況見て分かんないか?俺は死ぬつもり……」


「なら死ぬ前に一回勝負しよ?あそこのテーブルがいいね!」


「はぁ……………」


何なんだよ。この女は。意味が分からない。


「一回勝負したらいいんだな?」


「あ。余裕だね?余裕ぶってるのも今のうちだからね!」


「あっそ。」


元気な少女に流されるまま忍は腕相撲をすることに。


「いくよ!レディー………ゴー!」


ふにゃふにゃふにゃふにゃと力が入るのか分からないような言葉で彼女は力を入れるが……当然。


バン。

忍の勝ちだった。


「っぱぁ~!つよ~!すご~!めちゃくちゃスゴいよ~!鬼さん!」


「鬼やめてください。忍ですから。」


「じゃあ忍くん!スゴいよ!」


「あっそうですか………ならこれで俺は死ぬんで………」


「ねぇ!貴方!私と一緒に生徒会しない?」


「は?」


彼女は突拍子もないことをいう。


「生徒会?」


「そう!私が会長で貴女が副会長!」


「なんで俺………」


「私ね。不幸体質みたいでよく転けたり誘拐されたりするの?」


「誘拐は不幸とかじゃないんじゃ………」


「ともかく。強い人が周りにいたら安心なの!だから」


手を伸ばす彼女。


「俺は不良だぞ?そんなヤツがなれる訳……」


「過去は過去でしょ?未来はどんな人にも変えられるでしょ?」


その言葉が忍の心に突き刺さった。


「俺で………俺で………俺でいいのか?」


「君だからこそいいんだよ!って何で泣いてるの?」


なぜか忍は涙が止まらなかった。

必要としてくれる人が、こんな俺にもいるんだ、と………


「俺で……ホントに………」


「ホントにいいってば!死ぬくらいなら私の力になって!」

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