第12話 沢香織ファンクラブ襲来

灰カスの必死の頼みはどうでもいいがハナから誰にも話すつもりなんかない。だって話せば終わるから。すべて終わるから。でもこの現状はどうにかしないといけない。クラスメイトにすべてと言っていいほどしれわたったこの状況をほっとく訳にはいかない。どうにかして現状打破しなければ………

なーんて考えているうちに気づけばもう午後お昼休みになっていた。


「晃太くん!お昼だよ!」


「え?マジ?もう?」


考え事をしていると、脳をフル回転させていると時間はすぐに過ぎ去るものだ。


「お弁当食べよ?」


「………腹減ってないんだけど………」


「減ってなくても食べなきゃ!せっかくお母さんがつくってくれたんだから!」


「まぁ………それはそうだけど……」


「じゃあ開けるね?オープ」



「ええいや。失礼っ。失礼っ。」


ガラガラっと扉をあけ入って来たのは見たことない顔の男子。変な言葉に歌舞伎っぽいいいかた。


「いいっや!失礼!このクラスに社 晃太殿は居られますかな?」


「あ、社ならあそこに。」


すぐさま指を指すのは香林。アイツにプライバシーというモノはないのだろうか。

指を指す方向にずんずんと歩いてくる彼。

遠目では分からなかったがコイツ身長でけぇ。190はある………見下ろされるのすげぇ圧があるんだけど。


「あ、いや。貴方が社 晃太殿?」


「あ、は、は、はい。そうですけど………」


「自己紹介が遅れてすみませぬ!」


「うわっ!急な大声やめてもらえます?」


「私は岳松 門左衛門(たけまつ もんざえもん)この高校の3年にして沢香織ファンクラブのリーダーを率いている。」


門左衛門って……いよいよ歌舞伎の世界にゴーだな……3年の先輩にこんな人いたんだ…へぇ………って。うん?今なんか変なこと言わなかったか?


「沢香織ファンクラブ?」


「はい。沢香織ファンクラブのリーダー兼責任者でありまする。」


「ちょっと待ってください………沢香織ファンクラブ?そんなモノが存在するんですか?」


「天使のような笑み 我々下々のモノにも訳隔てなく接するその態度はまさに女神 マリア そんな香織様を信仰すべく我々はファンクラブを率いているのですよ。」


「我々って………何人くらいの………」


「今で100人は軽く超えています。」


「100?」


声が裏返る。何?香織そんな信仰の対象になってたの?ヤバくない?てか怖くない?

てか………


「その香織のファンクラブが何の用?」


「あ、失敬失敬。忘れるところでした。うっかりうっかり。

率直に聞きます。社さん。貴方沢様と交尾をなさったのは本当ですかね?」


「………………」


ギロっとクラスメイトを睨む晃太。だがクラスメイトたちはいや?言ってませんけど?的な顔でごまかす。


「どっからその情報を?」


「我々に繋がる太いパイプから。」


パイプどこだよ。ふざけんなよ。


「どうなんですか?交尾したんですか?交尾なされたのですか?」


ぐいぐいくる門左衛門。


「いや、その………それは………」


「ちなみに嘘をつかれた場合我々も適切な処置を行います。」


「処置?」


「今私だけではなく他にもファンクラブメンバーを率いて来ています。その数50。」


「迷惑なんですけど………」


「その中にはボクシング部主将の飯塚、柔道部の竹之内、サッカー部足折りの択がいます。」


「いますって………」


脅しじゃん………ホントのこととか嫌なこと言った瞬間そいつら召還するじゃん?特に足折りの択嫌だな………


「ホントのことを言ったほうが身のためだと私は思いますがね?」


190センチ近くなる体を折り曲げて顔をちかづける門左衛門。怖い。実に怖い。

でも本当のこと喋れば………軍団全員が晃太に襲いかかってきてもおかしくない。だが…

嘘をつける状態じゃないことも理解出来てる。だってここは社のクラス全員が事の顛末を知っているのだから………だから………


「こ、交尾………しましたね………はい……交尾……ね………しました………」


「したんですね?」


「だけど!だけど!いきなりした訳じゃないですよ!長い交際期間があって………」


「あ、嘘ついたぁ?晃太くん。嘘をついたぁ。」


ヤバイ。香織警察に見つかった。


「い、いや……何言ってるの?香織。長い交際期間……あったじゃないか!ハハハ……」


「交際0日でヤった……」


「ちょいちょい!ちょっとだけ失礼っ!」


門左衛門の前から一旦離脱し部屋の隅に隠れる。


「何?」


「何?じゃねーよ!話合わせろよ!」


「嘘をつくのはよくないよ?」


「だからってほんとを伝えるのがいいとは俺は思わないなぁ~」


「ホントのこと話して楽になろ?」


「俺に楽に死ね、って言ってるのと同じだからな?」


「はぁ………意気地無しだなぁ……じゃあ私が物語をつくってあげるからその通りに運んでね?」


「何で上から目線?てか物語をって一体何を……」


「待たせたね!岳松くん!」


「これはこれは香織様。おはようございます。」


膝をたて剣士の忠誠みたいなモノを見せる門左衛門。このバカにそこまでする必要あるか?


「晃太くんが馴れ初めを話すのが恥ずかしいって言うから私が話すね?」


「ありがたき幸せ。」


幸せか?


「まず、私たちはヤりました。何の期間もなくヤりました。」


「ちょっと待て!プランがすべて一から違うが!」


それでも暴走トラックは止まらない。


「性に任せた私たちはヤりました。けどその愛は本物だから。だって私たち明日に学校休んで指輪買いにいくから。ペアリングの指輪。」


「は?」


「だからそれで理解して?ペアリングつけてればカップルっぽく見えるでしょ?」


「まぁ……確かに……」


納得すんなよ!


「だからまた明日に買ってきた指輪見せてちゃんとカップル報告するよ!ファンクラブの皆の前で!晃太くんが!」


「おい!ちょっと待て!」


「………わかりました。」


「わからないでください!そんなんで!頼むから!」


「では明日買いにいったペアリングを見せてちゃんとカップルという風に定めさせて頂きますね?」


「うん!」


「うんじゃねーし!ふざけんな!」


「分かりました。よし、帰るぞ。軍団ども。」


「ちょ、待って帰るの待って!色々ヤバイから!色々ヤバすぎるから!」


混乱する晃太に肩をポンっと叩く香織。


「最高でしょ?」

「最低だよ。」

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