第11話 灰カス
「なぁ~進藤。」
「あ?何だよ?」
「どこからの範囲が冗談に値するんだ?」
「知らね。人それぞれだろ。」
「じゃあ俺の冗談は?」
「普通の範疇でいけば冗談、キモい冗談ですむ。だけど相手が香織ちゃんだから冗談ではすまない。」
「香織の位置付けどうなってるんだよ?」
「晃太を狙う獣、というイメージかな?」
「獣って………」
「ガッツリ襲われてるから文句ないだろ?」
「文句とかじゃなくて………」
進藤から見て香織はそんなんだったのかよ。
「教えてくれよ。その現状を?」
「教えても一緒だろ?てか教えるとか倫理観的に良くないし。」
「気にするなよ。アイツに倫理観。」
「倫理観は誰にでもあるものでしょうが。」
進藤の方が正しいことを言ってるのは理解してるからこそ口が出しづらい。
「てか、香織は?」
「クラスメイトとさっきの襲った時の話して盛り上がってる。」
「待て待て。香織止めないと!」
「止めなくても浸水みたいにじっとしてても溢れてくるよ?」
「それでも浸水を眺めている訳にはいかないだろ!止めないとっ…………」
晃太が椅子から立ち上がろうとしたその時、
「はぁ~………ふぁ~………ぜーいん席につけぇ。てか……なんだ?何の祭りだ?うるせぇな?ガヤガヤしすぎだろ?頭ガンガンするから止めろよ。二日酔いで頭痛いんだから。」
ガラガラっと扉を開け入ってきたのは晃太たちの担任、
「あ、灰カス!おは~!」
「おは~じゃねーよ。うるせぇな。何でそんな騒ぐ?発情期ですか?この野郎。」
どっこいしょっと席に座り肘をつけだらけきった態度のこの男。この男こそが、
晃太たち2年3組の担任 灰刃 和馬(はいば かずま)先生である。
ざっくりと説明すると万年酒酔い、ギャンブル狂いに、女癖の悪さ、そして名前、アダ名の灰カス、からも分かるように何故教育現場にいるのか分からない人間である。
「なんなん?どした?この盛り上がり?何か宝でも見つかったか?宝くじでも当たったか?当たったなら8、2で俺にくれ。絶対倍にして返すから。」
「当たってないしまず灰カスにお金貸す人なんてもういないよ。この世界には。」
「世界は言い過ぎだろ?まだ世界は大丈夫だ。この辺の街はもう駄目だろうけど。」
どこまで金借りてんだ?何処のどいつからどいつまで金を借りてんだ?コイツは?
「じゃあ何でそんな騒いでんの?」
「あ、実はね?晃太くんと香織ちゃんが…」
「ちょっと待て。ちょっと待て。ちょっと待て。ちょっとまてー!」
一人の女子生徒がウキウキしながら話そうとするのを何とか止める晃太。
「何?どうした?晃太?」
「どうした?じゃねーよ!言わせるか!あんなこと!」
「言ってもいいじゃん?めでたいことなんだし?」
「香林…………お前人のことだからどうでもいいって思ってないか?」
「思ってないよ?」
「だったら学校に知られるリスキーさくらい分かるだろうが!」
「大丈夫だって。だって灰カスだよ?もう信頼も地に落ちてる先生なんだから何を言っても信じてもらえないよ?他の先生に。」
「ついにまた給料下がったしな。これで5回目。」
「……………」
確かにこの男を信じるヤツはこの高校で数少ないだろう………けど………
「だからってわざわざ自分から話す必要はな」
「灰刃センセ?」
「うん?何だ?沢?」
「私と晃太くん。セックスしました。中だしで。」
「は?」
「はい。報告しゅうりょ………」
「お前何でいった?お前何で喋った?意味ないよな?なのになんで喋った?」
「え、担任だし。したことは報告するのは義務かな?っと。」
「そんなん小学生でもそんな律儀にしないわ!」
「は?中だし?セックス?お前らが?」
晃太が香織の肩をぐわんぐわんに揺らす中そう呟く、灰刃。
「灰刃センセ?あの………嘘なんで……流して」
「嘘じゃない!ホント!見せられないけど私のお腹の中にはたくさんの晃太くんの精子が……」
「誰か!ガムテープ持って来てくれ!コイツの口を閉じさすから!」
「社。沢。」
「へ?」
「うん?何?灰刃センセ?」
少しトーンを下がった言い方で話す灰カス。
「中だしセックスしたのはホントか?」
「ホントだよ!ホントにホント!つい昨日のことだよ?」
「………………そうか………お前らがそんなことをなぁ…………分かった……なら」
そう言った灰刃はまるでアルマジロのごとき小ささで丸くなり………
「絶対!俺以外の先生たちに言わないでくれ!頼む!」
と綺麗な土下座を披露した。
「灰刃センセ………」
「……………」
「いや、今月も始まったばっかりなのに半分近く競馬でやっちゃってもう1日100均のパンで過ごしてるんだよ。」
「灰カス………公務員だよな?」
「あーそうだ!日本も終わったもんだ!公務員でも食っていけねーんだもん!」
「いや、それはお前のギャンブル癖のせいだろ?」
「そんな中で担任するクラスの中だしセックスが発覚なんてしたら………関係ない俺にまで火の粉飛んできてまた給料減る………もう二桁きるから………頼むから………」
「……………」
最後まで自分勝手なヤツだ………灰でありカスでもある。やっぱり灰カスである。
「分かってるな?絶対に言うなよ?このことは俺知らなかったってことにするから……」
どーして晃太の回りは変なやつばかりなんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます