第8話 日本語って難しい。

「今日は泊まっていきなさい?夜も遅いから。」


「遅くないっすよ。まだ22時………」


「22時!徘徊!ヤンキー!不良!」


「そこらにごまんと居ますよ?徘徊してる若者なんて。」


22時ならまだ可愛い方だろ。


「ダメダメ。娘の夫を補導される訳にはいかない!」


「夫じゃないですから。夫じゃないですよ?まず。」


「よしっ。今日は泊まっていきなさい。」


「いや、別にいいですから。」


「いや、遠慮せずに………」


「遠慮させていただきます。」


「もう布団も用意したんで……香織の部屋に。」


「確信犯ですよね?確信犯ですよね?分かってやってますよね?」


「何のことか分からないけど………まぁとりかく泊まりなさい!」


「いや……で……す……」


服がちぎれてもいいや。もうちぎれてでも自分の家に帰るんだ。

帰るん………


どすん!

肩に強い衝撃を与えられる。そこがジンジンっと痛い………振り向くと………


「泊まりなさい。家に」


大五郎さんの姿が。今の張り手?衝撃波みたいだったけど………


「あ、は、は、はい………」


進撃の大五郎に負けた晃太は香織の家に泊まることに…………


「今、みーちゃんたちにライムしといたから!持ってきてくれるって!学校の鞄とか制服とか明日いるもの全部今日中に。」


「今日中ならもうそのまま迎えに来てくれたらいいじゃないですか………」


「そこはそこ、これはこれ、だよ。」


「理解できません…………」


処理落ちしたコンピューターって多分こんな感じなんだろうな………


「とりあえずお風呂にでも入ってくれば?一番風呂だよ?」


「いいんですか?」


「いいよ!未来の娘の夫が何を言ってるの?」


「…………聞きませんからね。」


ともかく風呂には入らせてもらおう………

変な汗もかいてだいぶ疲れたから………

私も疲れたし………

本当に疲れたし………

疲れた体を癒すのが嫁の仕事ですからね。

仕事ねぇ………仕事………うん?晃太のモノローグに誰かの言葉が混じる。後ろを振り向くと………


「うん?どした?」


下着姿の香織がいた。


「……………何でお前がいるの?」


「いつも一番風呂は私だから。」


「あっそぉ。じゃあ何でもう脱ごうとしてるかな?」


「え?今から入るから。」


「あっそぉ。わかった。じゃあ………あとで……って痛い痛い痛い!後ろ髪ちぎれる!」


「後ろの髪伸ばしてるの?似合うね。」


「あっそぉ。それはありがとぉ。けどな?引っ張るのは違くない?」


「そこに髪の毛があったから。」


「そこに山があったから、みたいな言葉作らないでくれる?」


髪の毛あっても引っ張ってもいい理由にならないし。猫か香織は。


「痛………とりあえずお前が先に入れ。その後俺が入るから………」


「え、この場合2人で入るという選択肢は?」


「限りなくゼロに近いな。」


「え~………残念…………じゃあせめて先に晃太くん入ってよ!」


「何で?」


「何となく。」


「………変なこと考えてないか?」


「考えてないよ!なら2人で入る?」


「いや………いいわ………俺が先に入るわ。」


「よろしい!」


「何でお前が上から目線なんだよ?」






「はぁ…………………」


「あ、いた。てかいる!私の部屋に晃太くんが!」


「今までもいたことは来たことはあったよな?それの延長線上だと思え。」


「思えないね!もう私たちは付き合ってるんだから!」


「そこだよ。そこ。そこについて………ってお前………そのペットボトルなんだよ?」


「え?お風呂のお湯。」


「何で?」


「何でって晃太くんが入ったお風呂のお湯だよ?国宝だよ!国の宝だよ!」


「国の宝がだいぶ値下がりしてるな。価値ガタ落ちだな。」


「これが欲しかったんだ。前々から。ずっとずっと。サンタにもお願いしたんだよ?」


「サンタも苦虫噛み潰した顔して願い取り下げるだろうな。」


何だ?この依頼?ってな感じで。


「ようやくゲット出来て私満足!」


「それ捨てろって言ったら捨てれる?」


「晃太くんは火の中に裸足で飛び込めって言ったら飛び込める?」


「どんな状況と比例させてるんだよ。」


「まぁ、ちなみに私は火だろうと何だろうと例え火の中水の中。晃太くんのためなら何だってするよ?」


「じゃあ……ペットボトルの水を捨て」


「それは範囲外だから無理。」


「…………………」


日本語で話してたかな?日本語で話せてたかな?日本語で話してる感じがしなかったんだけど?


「とりあえず、横になろ?」


「う、うん…………」


ペットボトルを何か小さな黒いカーテンの後ろに置く香織。あそこに何があるのか……想像しただけで恐怖が……って


「何で俺の布団?お前にはベッドがあるだろうが!」


「ベッドの気分じゃなくて……今日は布団の気分で……」


「どんな気分だ!じゃあいいわ。俺がベッド借り」


「やっぱりベッドの気分」


「やっぱり布団で」


「布団だね!やっぱり。」


「金魚のふんか!お前は!」


「女子に向かってふん扱いとかそーゆープレイもしたいの?」


「いい。いい。全部そういう方面に持っていくな!お前の行動が金魚のふんだって言ってるんだよ!どっちつかずな行動して……」


「晃太くんもじゃん?ベッドか布団かどっちで寝るの?」


「用意してもらってるから布団だよ!」


「じゃあ私も布団だね?」


「何でそうなるん?お前にはベッドがあるじゃん?」


「ん?オマエニハベッドガアルジャン?どこかの国の名前?」


「一発しばくぞ。」


「お父さんから5発殴られるよ。」


「……………」


卑怯な………卑怯な手を使いやがる。


「1人で寝させて。」


「無理。」


「何で?」


「近くにいないと寝れないから。」


「俺………抱き枕?」


「本当の意味で抱いてもいいなら今すぐするけど。」


「立場おかしい。立ち位置おかしいんだよ!それ言うのは大体俺のほうだろ!」


「じゃあ晃太くんから………」


「言うか!ボケ!」


「殺生な。」


「使い方間違ってるぞ。絶対に。」


「どうする?このままうじうじしている間に寝不足のまま学校に向かうか、諦めて私と寝るか。」


「お前がベッドにいく選択肢はないんだな?」


「そんな選択肢初めからないよ。」


「作れよ。作っておけよ。最重要項目だろうが!」


「さぁ…どうする?寝不足?私と寝る?どっちにする~??」


コイツよってんのか?絡みがウザい。てか眠い。色々あって体は痛いしボロボロだし。寝たいというか横になりたい、だから……だから………


「絶対にこっち向くなよ?」


「無理だね。ガンガンに見つめるよ。」


「…………もういい。早く寝る。話したいことは明日喋る……」


諦めて一緒に寝ることにした。

いや、この寝るは普通の寝るだから!

深い意味はないから!

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