風邪

 年始早々、珍しく風邪を引いてしまった。熱は38.6度。正直、かなりしんどい。


「ミナト君、大丈夫ですか?」


 アリサが心配そうに、ベッドで寝ている俺を覗き込んでいる。


「横になって、ゆっくりしてればなんとかなると思う。ごめんね、料理作れなくて……けほっ」


 俺はマスク越しに咳をする。


「そんなのいいんです。早く、良くなって下さいね」


 アリサは冷やしたタオルを俺の額に載せてくれた。


「……ありがとう、アリサ。移るといけないから、もう部屋に帰ってていいよ」


 アリサはゆっくりと頭を横になって振る。


「こうしていると、私が風邪を引いた時のことを思い出しますね」

「……そうだね。懐かしいな」

「あの時もミナト君は、クラスメイトというだけで、私を親身になって看病してくれたんです。今の私たちは恋人なんです。もっと、頼って下さい」


 慈愛に満ちた目で微笑むアリサは、まるで聖女のよう。


「……うん。少し甘えるよ」

「今、おじやを作っていますかは、待っててくださいね」

「? アリサさん、おじやを作れるようになったの?」


 家事全般が苦手なアリサの発言に驚く。


「あれから私も少しづつ努力して、下手ですが最低限くらいはこなせるようになったんですよ? ふふっ、待っててくださいね」


 アリサの手作りのおじやを持ってきた。


「はい、あーん」


 アリサがスプーンで俺の口元に持ってきてくれた。


 ゆっくりと咀嚼そしゃくして、味を噛み締める。


「うん、ちゃんとおじやの味だ」


 あのアリサからは想像もつかない程の、“ちゃんとした”味だった。


 人知れず練習していたのだろうと思うと、胸が熱くなる。


「よかったです……」


 アリサはほっと胸を撫で下ろす。


「成長したね。アリサさん」

「………まだおじやくらいしかまともに作れませんけどね」

「それでもすごいよ、アリサさん」

「ありがとうございます……」


 沈黙が流れるが、嫌な沈黙じゃない。心地のいい沈黙だった。


「やっぱりダメですね」


 アリサがポツリと呟いた。


「何が?」

「コンビニでご飯を頂きましたが、どこか味気なくて……。やっぱり私はミナト君の作る料理をミナト君と食べるのが一番、美味しくて幸せなんです」

「……アリサ」

「だから、私はミナト君がいないともう生きていけない。そんな身体になっちゃったんです」

「ふふっ、大げさだよ」

「だから責任……取って下さいね?」

「ああ、責任取るよ。一生、アリサと食事を共にしたい」


 ある意味、結婚のプロポーズのようだった。


「ふふっ、ミナト君……」


 アリサは俺の頬に優しくキスをした。


「ううっ、でもやっぱり普通のキスがしたいです!」

「風邪が治るまではダメだよ、アリサ」

「分かってますけど……。うう、辛いですぅ」

「アリサはキスが大好きだもんな」

「はい。うう、ミナト君とチュチュしたいです……」


 2人きりの時は、隙を見てはキスをせがむアリサは本当に可愛らしい。


「だから早く良くなって下さい……ね?」

「そうだね。ふわっ……薬のせいか眠くなってきたよ」

「おやすみなさい、ミナト君。眠るまでずっとここにいますから」

「ありが……とう」


 アリサがいてくれることでホッとした。そして、俺は眠りに落ちた。

 



「36.6度」


 ベッドの上で体温を測る。すっかり熱も引いて体調も良くなった俺だった。


「良かったです!」


 アリサがベッドの上の俺に抱きついてきた。我慢してきた分、少し強めのハグだった。


「ありがとう、アリサ。アリサの看病のおかげだよ」


 俺は優しくアリサの髪をなでる。





 朝食を食べ終わり、リビングで2人きり。


「えへへ。じゃあ、キスしてもいいですか?」

「うん……」


 ソファの上で、アリサと何度もキスをする。


「ん……ちゅ……ん……ふっ……」

「は、激しい……ね、アリサ」

「昨日の分、もっとしたいです……」

「う、うん」


 また熱が上がりそうなくらい、情熱的な行為に俺たちは没頭した。

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る