年末年始
クリスマスの夜に2人きり。時刻は午後10時。俺の頭に“性の6時間”というワードが頭をよぎる。
──性の6時間 12月24日の午後9時から25日の午前3時までの6時間。
これは1年間で最も性行為をする人が多いとされる“性の6時間”だ。
「ん……むちゅ……ん……ふっ」
今日のアリサは、クリスマスのムードがあってか、一際“求めて”くる。
そのせいもあってか、余計“意識”してしまう。
いや、俺はこの前アリサに言ったじゃないか。そういうのはゆっくりでいいって。
ここでガッツクのは、言った手前、かっこ悪い気がする。
──そうだ。お経を唱えよう。やましい心を鎮めなくては。
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舍利子色不異空空不異色色即是空 空即是色受想行識亦復如是舍利是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故────」
「うわぁ! いきなりお経を唱えてどうしたんですか!?」
アリサが目を丸くして驚いている。
「ごめん!? 心のお経が漏れてた!」
「ど、どうしてお経を?」
「ごめん、アリサが魅力的過ぎて、その……心を落ち着けようと……」
「み、ミナト君、ごめんなさい! その……私も今日は気分が乗ってて……」
「ううん。謝らないで。アリサ」
俺はそっとアリサの頬を触る。
「ミナト君……。今日、泊まっていっていいですか?」
「──アリサ、それって……」
「今晩はずっとミナト君と一緒にいたいです」
「うん、俺もアリサと一緒にいたい」
「はい……」
そこで深い深いキスをした────
その夜、リビングの花瓶の花びらが、ひらりとひとつ舞い散った。
♢
「なんだかんだで今年も終わるわねー」
コタツに入ってだらけている、ユイカがそう言った。
今日は12月31日。大晦日である。
「はい、思えば長かったような、あっという間だったような……。とにかく濃い一年でした」
「アンタ達にとっては、激動の一年だったわねー」
「そうですね。ミナト君に看病してもらって、そこから料理を共にするようになって……」
「アリサ、そっからミナトにべったりだもんね。もう夫婦みたいなもんね」
「ふ、夫婦ですか? えへへ、そう見えたのなら嬉しいです」
「もしかして行くところまで行っちゃったんじゃないの?」
「え!? ええと……その……」
アリサは顔を赤らめ、モジモジしている。
「え? まじ!?」
「…………はい」
コクリとアリサが頷く。
「……そ、そう。ちなみ聞くけど、どうだった? や、やっぱり痛いの?」
「痛かったですけど……、その分嬉しかったです……。肌が触れ合ってるのが安心して……」
「そ、そうなのね……。はえ〜」
「──年越しそばお待ち」
コソコソ話している怪しげな会話を断ち切るように、俺は年越しそばを人数分、コタツの上に置く。
「うわぁ! これが年越しそばですか!」
「エビ天までのってて、豪華ねー!」
「それじゃあ──」
「「「頂きます」」」
♢
1月1日。正月。俺たちとたかしで近くの神社に
アリサとユイカは現地集合だとか。
「あけましておめでとう、たかし」
「ククッ、この神社で、この俺の右腕の“闇”が
見ればたかしの右腕には、黒い包帯が巻かれていた。
「む? この包帯が気に入ったのなら、予備がある。くれてやるぞ?」
「別の意味でケガしちゃうよ……」
「おーい!」
ユイカの声がした。
アリサとユイカに出会った瞬間、現地集合の理由が判明した。
2人は
「明けましておめでとう、ミナト、たかし」
「明けましておめでとうございます!」
2人の美しい姿に思わず息を呑む。
「あ、明けましておめでとう。2人ともすごく似合ってるな」
「あ、ありがとうございます///」
「ま、まぁ、そうでしょうね///」
2人とも少し顔が赤くなっている。照れているようだ。
2人のあまりの美しさに、辺りのお客さんも、ちらちらとこちらをのぞいていた。
「じゃあ、まずはおみくじでもする?」
「さんせーよ!」
「はい、ぜひ!」
「ククッ、今年最初の運試しといくとしよう……」
俺からおみくじを引く。
「中吉! まずまず!」
「末吉。まぁ、こんなもんでしょ!」
「大吉です! わーい!」
「──大凶。クククッ」
「なんで喜んでんのよ……たかし」
♢
終わった後にアリサが話しかけてきた。
「なんてお願い事したんです?」
「たぶん、アリサと同じことを願ったんじゃないかな」
「ふふっ、そうですね」
────『今年もアリサ(ミナト君)と一緒に、楽しくすごせますように』
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